2010年「名古屋」への条件 先進企業に学ぶ生物多様性(第3回)

企業にとって生物多様性はリスクにもチャンスにもなる。投資基準が整備されつつある今、欧州ではチャンスをとらえる企業が増えている。

国際的な石油資本のロイヤル・ダッチ・シェルは生物多様性を巡って環境NGOから手痛い批判を受けた過去がある。1995年に北海の油田施設「ブレント・スパー」が老朽化したため、解体して海中に投棄する計画を発表したところ、環境NGOのグリーンピースの抗議活動が起きた。法律に従って環境影響評価を実施し、英国政府も投棄を認めていたが、投棄を断念せざるを得なくなった。手続きを踏んでも、生物多様性を脅かす行為は批判を受け、企業行動を制約されることを身をもって学んだ。

油田施設を海洋投棄しようと計画したシェルに、水をかけて抗議活動をするグリーンピース。法を順守しても、生物多様性を脅かす行為はリスクを招く
写真/ロイター/アフロ
事件を受けてシェルは99年、それまで個々の部門で対応してきた生物多様性保全をグループレベルで扱うことにした。「生物多様性の方針を明確にしないと、市民から信頼を得られない上、銀行の融資も受けられないというリスクが出てきた」と、シェルの生物多様性アドバイザーであるサチン・カピラ氏は振り返る。その背景には、赤道原則が融資の判断基準として広まってきたことがある。
同年に外部組織を招いて意見を聞いたシェルは、次の3つの決定を下した。①生物多様性に関する基準を作る、②生態系への負荷を最小にする、③生物多様性を増やす─だ。
そこで2001年に、エネルギー会社としては初めて生物多様性の基準を作成し、石油開発事業の前に生物多様性を考慮した環境影響評価を行うことをグループ全体で義務づけた。
2003年には世界遺産地域でプロジェクトを実施しないことを発表し、2005年にはNGOと科学者、大学の研究者と2日間のワークショップを開いて、過去5年間の成果と今後の5年間について議論した。
シェルは現在、40カ国で約100のプロジェクトを実施している。例えば、アフリカのガボンでは40年前から石油を採掘しつつ、一方で熱帯雨林を保全し、密猟者の侵入を防ぐ活動もしている。採掘が森林に与えた影響を見極めるため、2000~05年にはスミソニアン協会に280万ドル(約3億円)を支援し、科学調査を実施した。石油の採掘によって生物多様性にどのような被害があったかを評価したところ、「思ったほど破壊はなく、 森林が健全に成長していることがわかった」という。

シェルが国際自然保護連合(IUCN)と共同で作成した報告書。生物多様性を理解すれば、チャンスと利益を生み出せる
シェルが最近興味を持ち始めたのは、ビジネスチャンスだ。「これまではリスクを避けるために生物多様性に取り組んできたが、今後はビジネスチャンスが広がるような活動も進めたい」(カピラ氏)と考え、昨年、IUCNと共同で「生物多様性ビジネスの構築」という報告書を発表した。この報告書では農業、漁業、林産品、水の保全、エコツアーなどに分けて、生態系サービスの価値を解説。シェルが石油事業を展開するガボンは「300億ドルの価値がある」とカピラ氏はみている。
現在、カタールで進めている石油開発事業では、初めて海と陸の両方で生物多様性の損失をオフセットする予定だ。300haの土地にパイプラインと宿泊施設、道路などを建設する事業による損失の相殺を目指す。資源採掘会社にとってオフセットは「取り組まないとリスク。本業ビジネスが危うくなる」。業界に先駆けた指標の開発が期待されている。
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