市民と行政が目指すべき“大人”のコミュニケーション
こうした一連の取り組みは、あくまで市民の理解や協力があってこそ成功する。パーク&ライドに限らず、地方自治体が巨費を投じて導入に乗り出したものの、結局、利用者である市民に受け入れられず、事業自体が消滅するケースは珍しくない。
“縦割り行政”の弊害や年度ごとの予算体制など、背後に潜む問題要因は多いが、その解決の一助をなすのは市民が積極的に発言していき、行政側もその声に対して真摯(しんし)に耳を傾けることのできる仕組みではないだろうか。 そういう観点から見逃せないポイントがある。
具体的には、1998年(平成10年)に金沢市が事務局となって発足し、現在はNPO(非営利組織)として活動を続ける「明日の金沢の交通を考える市民会議」(以下、交通市民会議と略)がそれだ。市民の目線から、自分たちの住んでいる都市交通の問題をとらえ、行政に対して様々な提言を行っている団体である。代表を務める吉田洋氏は、金沢市駐車場適正配置審議会委員をはじめ、様々な協議会や委員会に参加し、市民の立場から意見を述べている。

明日の金沢の交通を考える市民会議 代表 吉田洋氏
「10年くらい前まで、私は建設総合コンサルタントで、町づくりや都市環境整備などに直接携わってきました。しかし、住民や地域の成熟度よりも、国や県の事業スケジュール優先で町づくりが進められてしまう実状に、限界や落胆を感じていたのです。行政は年度単位で事業を推進しますが、市民はそれぞれが日々の暮らしを営んでいるわけで、そもそもタイムスケールが合わないんです。それで、自治体の都合を優先した事業ペースでは、やはりダメなんだと実感しましてね。市民の目線で事象をとらえ、市民の立場で考えていきたいと思って、1999年(平成11年)から交通市民会議に参加したのです」(吉田氏)。
交通市民会議では、常時15人程が各自の問題意識を基にチームを組んで調査活動を行い、年1回(毎年6月)の年次報告書にまとめている。
例えば、金沢大学の学生でもあるメンバーの1人は、工学部が移転するとクルマの利用者が増えるだろうと考え、移動手段の変化や希望に関するアンケートを行った。その結果、最大の問題はバスの乗り継ぎが不便になることにあり、もし100円バスの運行が実現されれば「バスで通ってもよい」と回答する学生が多いことが分かった。この調査結果は地元メディアで取り上げられ、100円バスの社会実験の実施につながったという。
また、別のメンバーは自身が歩行に杖を必要とすることから、100以上の横断歩道を自ら歩いて信号の点滅時間などを実測し、障害者にとって快適な歩行環境に関するリポートをまとめた。
「それぞれの立場で実際に感じた問題意識をベースに、何らかの活動を起こすことが重要なんです。調査結果をリポートに仕上げる作業はコンサルタントも同じですが、使える経費の方は3分の1程度でしょうか。仕事量としては割が合いませんが、学生や障害者、女性など、立場の違う人々の生の声を直に聞けるので、とても勉強になりますし、励みにもなります」と吉田氏は強調する。
吉田氏によると、「金沢市民は閉鎖的な土地柄のせいなのか、本音をずばり言わないのを美徳とする傾向があるようです。ですが、それでは金沢は良くなりません」とのことだ。
金沢市の交通のあるべき姿を市民の目線で追求する吉田氏に対して、パーク&ライドについての意見を聞いてみた。
「魅力と個性に満ちた中心市街地に駐車場が散在していては、歴史ある金沢の街並みの“連続性”が損なわれてしまいます。市街地へのクルマの流入を抑制するパーク&ライドは重要でしょうし、避けてはいけない課題だとも思いますね。金沢は他の都市や地域と比べると、中心市街地と郊外の違いが分かりやすいでしょうから、クルマを利用すべきエリアと公共交通を優先すべきエリアの境界線を考えるという意味では、パーク&ライドを実現しやすい地域かもしれません」(吉田氏)。
ただし、課題も少なくないという。例えば、行政は年度単位で事業を編成するので、実証実験ひとつ取ってみても、市民の間で話題にのぼる前に実験が終わったりする。
「これでは(市民からの税金でまかなわれる)事業費がもったいないですよ。市民と行政の間に理解不足やズレがあってはなりません。お互いの立場を尊重しつつ、行政は市民の目線での理解に一層努めるべきでしょうし、市民側も行政特有の事情、つまり公平性による限界や制約といった事情に理解を深めて、相互に補完し、協調し合える……、いわば“大人の関係”を築いていくことが大切だと思います」と吉田氏は語った。
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