第3回 環境不祥事を防ぐ(後編)

文/田中太郎、相馬隆(日経エコロジー)
ここまで、神戸製鋼所とJFEスチールで環境データの改ざん問題がなぜ起こり、どのような再発防止策を進めているのかを見てきた。
だが、環境不祥事はこの2社に限った問題ではない。
昨年2月のJFEスチールの事件をきっかけに、千葉県は公害防止協定を結んでいる県内約60の事業所に水質データの点検を要請した。その結果、3つの事業所で排水データの改ざんが見つかった。
昨年3月、昭和電工は同社の千葉事業所(千葉県市原市)で、子会社の昭和軽合金が排水量などを書き換えていたことを公表した。8月には、王子製紙の子会社である王子コーンスターチ(東京都中央区)の千葉工場(千葉県市原市)が改ざんを公表。不二サッシ千葉工場(同)でも、改ざんが判明した。
芋づる式に明らかになった排水データの改ざんは、業種や企業規模に関係なく、どのような企業でも環境不祥事と背中合わせであることを示している。
なぜ、環境不祥事が後を絶たないのか。「現場で何が起こっているのかをマネジメントが全く知らず、逆に経営トップの意識が社員に伝わっていない。コミュニケーション・ギャップが最大の問題」。SRI(社会的責任投資)の調査会社として、企業のコンプライアンス意識調査なども手がけるインテグレックス(東京都渋谷区)の秋山をね社長は指摘する。
「失敗」の段階で手を打つ
神鋼やJFEの担当者が、最も痛切に反省していたのは、現場に任せきりにしていた管理体制の不備だ。管理データが基準値を超えそうになるなど、ちょっとした「失敗」の段階で抜本的な対策を打っていれば、改ざんという大きな「不祥事」にはつながらなかった。

失敗は、常に起こり得るもの。現場の操業部門は、ぎりぎりの合理化の中での業務を余儀なくされている。「環境データに異常が出たからといって、すぐに操業停止のボタンを押せるのかと問われると、非常に難しい」。あるメーカーのOBが語る本音は、どの企業の担当者にも共通するのではないだろうか。
神鋼では、「操業は停止できないが、法規制にも違反したくない」という操業担当者の迷いが、改ざんという最悪の結果を生んでしまった。
「人は失敗をやらかすもので、その失敗を隠そうとするのは自然の心理。社員の良識や注意力だけには頼れない」(失敗学会の飯野謙次副会長)
そこで、両社が進めているのは、現場の情報を徹底的に吸い上げる仕組み作りだ。JFEでは、現場でのデータの二重チェックや管理職の確認、さらにはインターネットで社内に公開するという、何重ものチェック体制を作っている。
「性善説から性悪説への転換」と評す向きもあるが、現場の従業員は意図して不正を働いたわけではない。実態に即して言えば、「“性弱説”に基づいたマネジメントが必要になる」(インテグレックスの秋山社長)。
チェックの仕組み作りだけでなく、不祥事を未然に防ぐための社内の意識改革はより重要だ。チェック機能を強化しても、すべての失敗を見抜くことは難しい。むしろ、こちらの方が抜本的な対策といえる。

三井化学は今年10月、研修センター(千葉県茂原市)を開講した。コンプライアンスを含めた環境安全の全社的なレベルアップを狙う。
写真は、粉じん爆発の原因になる静電気の基礎を学ぶ講座
写真/的野弘路
ただ、意識改革ほど難しいものはないのも事実。「例えば、環境問題を意識させるためのスローガンを工場に張り出しても、日常風景になってしまっては効果が無くなる。手を変え、品を変え、刺激を与え続けなければならない」(三井化学の篠原善之専務)
性弱説に基づいた取り組みが必要といえる。
意識改革というと、社内研修が相場になっているが、受ける側に学ぼうという気持ちがあってこそ効果を上げる。大切なのは、ルールを守れと指示するのではなく、問題意識を共有しようという姿勢だ。
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