第26回 水を使わない男性用小便器におわず運用コストは4分の1[水問題]
日本国内には250万~300万台の男性用小便器があるとみられる。1回使うごとに流す水は1~5ℓ。きれいな水を大量に消費している。そこで、水を使わず、においも抑えた画期的な便器が登場した。
文/吉岡 陽(日経エコロジー)

南海鉄道の難波駅の無水小便器。微生物の繁殖しやすい水洗に比べて驚くほどにおいがしない。「無水はにおう」というイメージを持たれないように、床の清掃も水を極力使わない方法に改めた
大阪府を縦断する南海電気鉄道は、3月までの1年間に18駅、73台の男性用小便器を無水に切り替えた。節水効果は年間2万2000t。約7万人が家庭で1日に使う水の量に匹敵する。CO2排出を約12.7t削減できる計算だ。同社はさらに導入を進める。
水を流さないと不衛生のようにも感じる。だが、利用者が多い難波駅のトイレは、驚くほどにおいがしない。においの主犯は尿自体ではなく、尿素を微生物が分解することで発生するアンモニア。無水だと微生物が繁殖しにくいため、水洗に比べてその数は5分の1程度と少ない。掃除は洗浄液を噴霧してペーパータオルでぬぐう。ここでも水は使わない。
この無水小便器を開発したのは、米国のファルコン・ウォーターフリー・テクノロジー社。2000年に設立して急成長したベンチャー企業で、元米副大統領のアル・ゴア氏が社外取締役を務めることでも知られる。
無水小便器は便器本体と尿が流れ込むカートリッジとで構成される。ファルコン社はカートリッジを製造し、便器の製造は世界の衛生陶器メーカー13社に委託している。販売台数は28カ国で累積10万台を超える。
慢性的な水不足に悩む米カリフォルニア州では一部の自治体が無水小便器への切り替えに全額を補助しており、州内の男性用小便器の販売台数の6割を同社の製品が占める。島国で淡水が貴重なフィリピンでは販売シェアは9割に達しているという。

尿を受けるカートリッジ。中国やフィリピンでは使用済み品を回収してABS樹脂を再利用している
技術のミソはカートリッジにある。この中には尿よりも軽い特殊な「密閉液」が充てんしてある(右の写真)。尿はこの密閉液を貫通し、カートリッジの中を通って排水管に流れる。カートリッジには尿が残るが、密閉液がふたの役割をする。価格は約5000円で、5000~1万回使用すると微生物がたまるので、交換する。
便器の素材は水洗と同じだが、尿を受ける部分をわずかに凸面にして、尿が飛散しにくくしてある。自動洗浄のセンサーや給水バルブが不要なので、価格は水洗の半分の約10万円。
運用コストも劇的に下がる。ファルコン社の試算では、混雑した駅の水洗小便器( 1回2ℓ×500回/日と仮定)を15年使うと、約440万円かかる。この65%を上下水道代が占める。これに対して無水は約110万円(55%がカートリッジ代)。尿と水道水のカルシウムが反応してできる尿石を除去する、排水管清掃も不要になった(10万円×3回)。
日本では、2003年に省電舎が代理店になり、400台程度を販売してきた。世界的に水問題が注目される中、南海電鉄の一斉導入を皮切りに2008年度は数千台の受注を目指す。

上記の記事「水を使わない男性用小便器におわず運用コストは4分の1[水問題]」は、『日経エコロジー』2008年5月号に掲載された特集です。なお、記事中に記載した内容については、『日経エコロジー』2008年5月号掲載時の内容となっております。
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