このページの本文へ
ここから本文です

夏“涼しく”、冬“暖かい”地下活用 自然の冷熱使い省エネを実現

2007年5月29日

文/吉岡 陽(日経エコロジー) イラスト/タジマヤスタカ

地表から数m下の地中は、年間を通じてその地域の平均気温とほぼ同じ温度で安定している(日本では10~15℃)。この自然の冷熱を地下から“くみ上げる”ことで、空調や融雪などで大幅な省エネを実現できる。

工場の正門をくぐると、すぐに甘いイチゴの香りに包まれた。瀬戸内の島々を望むジャムの老舗メーカー、アヲハタの工場(広島県竹原市)では、世界でも珍しい省エネの取り組みが進められている。

工場の建屋は一見すると何の変哲もない。だが実は、地表から100mの深さにまで打ち込まれた太さ数cmの樹脂製のU 字パイプが、74対も建屋を取り囲むように埋設されているのだ。パイプの総延長は約15km、その中を絶え間なく水が流れる。

地中の冷熱でジャムを冷やす
電力消費は従来方式の6分の1

瓶詰めジャムの冷却工程

●瓶詰めジャムの冷却工程
ジャムの老舗メーカーのアヲハタは、日本で初めて生産工程に地中冷熱を利用することで、大幅な省エネを実現した

瓶詰めしたジャムは高温で殺菌するが、熱で風味が損なわれないよう、すぐに冷水を浴びせて冷やさなければならない。毎日25万個の瓶詰めジャムを作るこの工場では、大量の冷水を使う。地中に埋まるU字パイプは、それを作るための装置なのである。

冷却に使う水は循環利用している。瓶の熱で30℃に温められた水は、熱伝導率が高い高密度ポリエチレンのU字パイプを通って地下100mに潜る。そして再び地表に戻ってくるまでの間に地中に熱を放出することで、27℃にまで冷える。このシステムで電気を使うのは、水を循環させる小型のポンプだけで、一般的な冷却装置で3℃下げる場合に比べて、年間電力消費量はわずか6分の1だ。

最終的に必要な20℃の冷水を作るためにはこのシステムに加えて、冷却塔や冷凍機などの装置も使う。部分的に地中の冷熱を利用したことで、冷水を作るための全体の電力消費量を約4割削減できた。

運転を始めた2005年7月からの実績で、電気代の節約効果は年間約300万円。生産技術本部の藤原祐治マネージャーは、「地中冷熱利用冷却システムの初期投資は、同じ能力の従来型の冷却装置に比べて2倍かかったが、差額は7年ほどで回収できそう」と、笑みをこぼす。

道路の融雪システム

●道路の融雪システム
ミサワ環境技術が設置した、大山隠岐国立公園内の県道。路面の雪は融けて消えている

アヲハタのシステムを手がけたミサワ環境技術(広島県三次市)の森山和馬常務は、「工場の生産工程の中で地中の冷熱を利用した例は、日本で初めて」と話す。

地中熱利用技術は、ほかにも様々な分野で活用されている。導入が進んでいる分野の1つが、道路融雪()だ。アヲハタの例とは逆に、冬の間、地中が地上の温度より暖かいことを利用する。

※ 道路融雪
道路の融雪で最も一般的なのは、地下水をくみ上げて路面にまく方式。しかし、地下水の使い過ぎで地盤沈下が起き、くみ上げ規制を実施する地域も少なくない。地形によっては地下水の採取が難しい場合もある。これまでそうした地域では、石油ボイラーで温めた水を路面下に埋設した放熱パイプに循環させる方式や、埋設した電熱ユニットで路面を温める方式などが使われてきた。初期投資は比較的安く済むが、ランニングコストがかかる上に、省エネの観点からも問題があった


ミサワ環境技術は1998年に「地中熱利用路面融雪システム」を実用化した。地下50~150mまでボーリングしてポリエチレン製の熱交換パイプを埋設し、不凍液を添加した水を地上から送り込む。地中で温められた水は路面下に敷き詰めた放熱パイプを循環して雪を融かし、熱交換パイプに戻る。1本の熱交換パイプで30~70m2を融雪できる。

従来の融雪設備と異なるのは夏場にもシステムが活躍する点だ。日差しを受けて60~70℃に熱せられた路面を、今度は冷却する効果を発揮するのだ。市街地ではヒートアイランド対策になると同時に、膨大な熱エネルギーを地中に蓄えられるので、冬場の融雪の効率も上がる。

電力を使うのは水を循環させるポンプだけなので、冬場に4~5カ月間使う場合、エネルギー消費量は石油ボイラー方式や電熱方式の10分の1~20分の1で済む。初期投資は電熱方式の3~4割増しだが、差額は10年ほどで回収できる。

同社は、鳥取、島根、岡山の3県にまたがる大山隠岐国立公園内の県道に、総延長2.3km、総面積1万2700m2の融雪システムを設置している。これほど大規模な地中熱を使った道路融雪は国内には例がない。

地中熱を使った融雪技術は道路だけではない。ジャスト東海(山口県宇部市)は、住宅の屋根の融雪システムを販売する。金属製の屋根の下にパイプを敷き詰め、地中熱で温めた水を循環させる。電気代は1カ月当たり500~1000円。ボイラーや電熱線を使う方式に比べて大幅な省エネになる。「熱伝導率が極めて高い屋根材や効率の良い地中熱交換器を開発して実用化した」(志賀均社長)

ここから下は、過去記事一覧などです。画面先頭に戻る バックナンバー一覧へ戻る ホームページへ戻る

記事検索 オプション

SPECIAL

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る