消えたウナギが帰ってきた
生き返りつつある気仙沼の海
現在も畠山氏は舞根湾でカキ養殖業を営んでいる。畠山氏の漁場は、舞根湾と大川河川水の通り道になっている貝浜漁場だ。「昔から何でも育つ良い漁場だった」という。
大川の水は海水に比べて軽い。そこに「室根おろし」と呼ばれる季節風がふきつけることと潮流で、湾全体に命の水が広がっていく。表面の水が風で湾の外に押し出されると、深層から豊富に栄養分を含んだ水が湧き上がり、海の中には一足早い春がおとずれる。「スプリングブルーム」と呼ばれる現象だ。

スプリングブルームの恵みを受けた貝。白く見えるのは急速に成長した部分である
「漁師では食べていかれない」と陸に上がってしまった仲間も多いが、畠山氏の2人の息子は家業を手伝っている。今では市場出荷だけでなく、ネット直販や大手流通への直販など様々なルートがあり、何とか食べていけるだけの収入は得られているという。
「第一次産業は落ち込んでいるというけれど、田舎に住んでいれば家はあるんだから家賃はいらない。食費だって米だけ買えばおかずは海から採れる。田舎で漁師を続けていけるかどうかは、収入よりも好き嫌いの方が大きいと思う」(畠山氏)。
畠山氏は息子たちには「好きなことを一通りやってみろ」と言い、2人とも一度学生時代に都会に出たが、結局、カキ養殖の道に帰ってきた。「都会で家を買ってサラリーマンをやるよりは、田舎の方がずっといいさ」と畠山氏は笑い飛ばす。
舞根湾にも地球温暖化の影響は出てきている。
ここ5、6年、天然のカキが岩につくようになっているのだ。舞根湾は水温が低く、累積水温が一定以上にならないと産卵しないカキが、自然に産卵することはなかった。

岸壁にびっしりとついている天然のカキ。従来は水温が低く、野生のカキは育たなかった
つまり、天然のカキが増えてきたということは、海水温が上がってきたことの明らかな証拠なのだ。海水温が上がりすぎると、ホタテの養殖に悪影響が出る。現在、宮城県はホタテ養殖の南限であり、これ以上、海水温が上がると育たなくなってしまう可能性がある。
だが暗い話ばかりではない。「森は海の恋人運動」がきっかけとなり、大川の水と舞根湾の水は確実に再生している。
「孫を連れて散歩していたら、うなぎを見つけた。子供のころはたくさん採れたのに、いつのまにか消えてしまったうなぎが、舞根にも帰ってきた」と畠山氏は喜ぶ。

漁船に乗る畠山氏。背後に見える大川の河口から、命の水が流れ込む
漁師の直感と行動力で始まった「森は海の恋人」の運動は、全国の森と海の人たちに広がっている。
「森が育む鉄の力で、沿岸の海は再生できる。地球温暖化は全然怖くない。私はそう思っています」──そう語る畠山氏の目は輝いていた。
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