古いものは斬新!?
都市と農村の交流が生む新たな価値観
こうして今、「グリーンツーリズムの成功例」「グリーンツーリズムの“メッカ”」として名の挙がるようになった安心院町だが、目標とするアッカーレン村の従業率100%には遠く及ばない。それ以前に、日本では「グリーンツーリズム」という言葉さえ聞いたことのない人の方が多い。
国内でグリーンツーリズムが普及しない大きな原因の1つは、「長期休暇制度が確立していないこと」だと宮田氏は指摘する。ヨーロッパではバカンス法によって長期休暇の取得が定着しているため、観光地で1週間ほど滞在するのはごく普通のことだ。
一方、日本では年末年始でさえ数日しか休めない人も珍しくない。有給休暇制度はあっても、取得率が低い。仮に東京都に住む人が大分県まで来ようとすれば、往復だけでほぼ2日を費やすことになるため、3連休程度ではよほどの動機がない限り「行ってみよう」と思わないだろう。実際、安心院町を訪れる人の多くは、福岡など九州都市部在住の人が多いという。

小泉元首相も手に取った、宮田氏のワイナリーで作っているワインとぶどうジュース。直接、話す機会があった宮田氏はもちろんバカンス法の制定を提言
この現状を何とか打破したいという宮田氏は、長期有給休暇制度の導入を進める「ILO(国際労働機構)132号条約」の批准、あるいはバカンス法の制定を求める請願書を関係機関に出している。
「人間の基本は“食いもん”でしょう。国の基本を農業に置かなければだめですよ。ドイツやイタリアでは、農業をやることは環境を守ることだという認識があります」(宮田氏)。
ドイツでも1970年代には食料自給率が60%にまで落ち込んだことがあった。だが、農業を重要産業として位置付ける国の政策によって、現在は100%にまで回復している。
今、日本の農村はかつてのドイツと同じ状況だ。多くの農村は「限界集落」(過疎化などで住む人の50%以上が65歳以上となっている集落)とまでいわれ、何もしなければ、そのまま消えていくところが日本各地にある。
「村をたたんで出て行くか、外から人を迎え入れるか――選択肢は2つしかありません。それなら、外から人を迎え入れるしかないでしょう」(宮田氏)。
それには、「古いものをきちんと守らないといけません」と宮田氏は続ける。「古いものには勝てません。古いものは“斬新”ですよ。マネできないし、作り直せない。なんぼ金を掛けてもできませんよ。でも、ワイナリーみたいな新しいものは、お金さえ掛ければ出来るんです」(宮田氏)。
そしてまた、リピーターを呼ぶのも“古いもの”だ。
例えば、安心院町には水車がある。100年前に建てられた畜舎もある。どれも都市に暮らす人々にとっては珍しい。修学旅行の学生たちにとっては、うどん作りさえ新鮮だ。
「こういう古くからあるものを、田舎の人は恥ずかしいと思っているんですよ。でも、今はなかなか見られなくなっていますから、かえって都会の人には斬新に映るんです」(宮田氏)。
都市部からやって来た人が、安心院町に残る“古いもの”を見、そこに伝わる知恵に感動する。その姿に地域の人々は、自分たちの暮らしに隠れている価値を見出す――これまで出会うことのなかった人々の交流が、それぞれに新たな価値観を育んでゆく。
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