心の交流に重点を置き
何度も訪れたくなる第2の故郷に
「安心院は不思議だなぁ」――視察に訪れたある人は、そうつぶやく。目の前に広がる、のどかな農村の風景。あるのは山と川と田んぼばかりだ。強いて特徴を挙げるとすれば、特産物のぶどう畑だろうか。
「ここは見ての通り、何もないところです。でも、安心院の資源は“人”なんですよ」──安心院町グリーンツーリズム研究会の会長を務める宮田静一氏はそう語る。

安心院町グリーンツーリズム研究会
会長 宮田静一氏
安心院町(大分県宇佐市)は、グリーンツーリズム(都市農村交流)の成功例として全国に知られる町だ。宮田氏が中心になって、安心院町のグリーンツーリズムを進めてきた。
1992年、農林水産省が農村地域政策の一環として導入したグリーンツーリズムは、農家が副業として直売所や民宿、レストランなどを営むことで、経済的な基盤を強くしていこうという取り組みである。
グリーンツーリズムでは、農産漁村を訪れる都市生活者にとって、のんびりとした生活やそこで味わえる農業体験が日常のストレスを開放し、癒しを得られるというメリットがある。元々はヨーロッパで始まった長期滞在型の余暇スタイルだ。
だが、1週間以上の長期休暇があまり定着していない日本では、利用客数が伸び悩んでいる。また、農家にとっては都市生活者を宿泊させたり、農業体験に取り組んでもらったりと、いわゆる慣れない“サービス業”を提供しなければならない。そのため、準備や気疲れなどがかえって負担となるケースも多く、国内ではなかなか定着しなかった。
そんな中、多くのリピーターを生み続けているのが、ここで紹介する安心院町(大分県宇佐市)である。冒頭で紹介した通り、一見すると何もない農村に、なぜ人が集まるのか――?
通常、グリーンツーリズムというと農業体験などのプログラムをメインに置くことが多い。だが、安心院町では“ありのまま”の暮らしを味わってもらうことに重点を置いている。
例えば、ごく普通の農家に宿泊客を泊める「農家民宿」(すぐ後で触れるように、安心院町では「農村民泊」と呼んでいる)では、普段、自分たちが食べているものをグリーンツーリズムで訪れたお客さまにも出す。昔から地元に伝わる素朴な家庭料理が、かえって「懐かしい」と好評だ。一緒に食べ、飲み語らううちに、まるで親戚のような関係になっていく。安心院町が「第2の故郷になる」のだと宮田氏は言う。
「安心院の資源は人なんです。大切なのは、『あんたがおっちょーやないか(あなたがいるじゃないか)』ということ。私たちが目指しているのは、農業と農村を舞台にした、新しい観光なんです。だから人と人との交流をとても大事にしています。これまでの観光のように、ただ人が来て帰っていく場所ではないんですよ」と宮田氏は語る。
単なる観光であれば、1度名所などを回ればそれで終わりだ。何度も繰り返し訪れる人は、その名所によほど惚れ込んでいる人以外はまれだろう。特に、安心院町は何かを見て回るような場所ではない。だが、その地に自分を迎えてくれる人がいる、自分の“故郷”ならどうだろう? 人と人をつなぐ心の交流が、1度訪れると「また来たい」どころか、「帰ってきたい」と思わせる。そういう魅力を持っているのが安心院町の人々であり、宮田氏が「資源は人」という意味でもある。
この連載のバックナンバー バックナンバー一覧へ 画面先頭に戻る
- 命の水を再生する「森は海の恋人」(後編)牡蠣の森を慕う会 畠山重篤氏 (2008/06/24)
- 命の水を再生する「森は海の恋人」(前編)牡蠣の森を慕う会 畠山重篤氏 (2008/06/17)
- “エコ&癒し”を得られる第二の故郷・安心院(後編)「舟板昔ばなしの家」農村体験Photoリポート (2007/12/25)
- “エコ&癒し”を得られる第二の故郷・安心院(前編)安心院町グリーンツーリズム研究会 会長 宮田 静一 氏 (2007/12/18)
- ゼロエミッションでリッター100kmカーへの挑戦(後編)都市交通のパラダイムチェンジがライフスタイルを変える (2007/12/04)

