社会全体の環境負荷を下げることが
エネルギー産業のリーダーとしての取り組み
東京電力にとって電気自動車はどのような役割があるのだろうか。「これは環境への取り組みのひとつです」と姉川氏は語る。
発電という営みそのものが、二酸化炭素を大量に排出する環境負荷の大きな事業であることは説明するまでもない。東京電力でも、最も重要な環境対策として、エネルギー源を環境負荷の低いものに転換し、また発電効率を上げたり、送電ロスを減らすことに30年以上前から取り組んでいる。
「京都議定書で二酸化炭素排出量の削減を要求されていますが、電気についてはこれ以上、二酸化炭素の排出量を削減するのが難しいところまで既に下げているのというのが現状なんです」と姉川氏。
だからといって、エネルギー産業の“リーダー役”として、「あとはユーザーの節電努力でなんとかしてください」だけで投げ出してしまうわけにはいかない。エネルギー効率の良い電気自動車を利用し、かつ今よりも不便にならないライフスタイルを提案していくことで、社会全体の環境負荷を下げること。そのための利用環境を整え、価格を下げる努力をすること。これらも環境への取り組みであると位置づける。
ハイブリッドカーが市場に出たことで、車の“エコ”に出費するなら30万円くらいはガソリン車より価格が高くてもいいのでは……このような基準というかイメージがなんとなくユーザー(消費者)のなかに出てきている。「環境のために費用を負担してもよいという雰囲気は、少しずつではありますが、世の中に広まってきているように感じます」(姉川氏)。
電気自動車を本格的に普及するための初期の段階では、行政による補助金制度や、充電インフラの整備など、環境づくりが必要だ。最初の段階で上手に背中を押すことで“マスプロダクト”への道を歩み始めれば、あとはコストを押し下げることができ、普及の壁はどんどん低くなっていく。この取り組みは、東京電力だけでは難しい。行政、自動車メーカー、電池メーカー、部品メーカー、さらには利用者側も協力しなくては実現できない。
昨年6月、10台の試作車を東京電力の営業所に試験導入した。その後、協議会による貸し出しなどの普及活動と並行して、3000台の東京電力への導入を進め、電気自動車は十分に実用できるのだという実績を作って世の中にPRするというのが姉川氏の描いたストーリーだった。
「今までさんざん『電気自動車は実験室の乗り物だ』とか、『本格的な実用化は苦しい』とネガティブな評価をされていたのに、予想外に多くの人から注目されて驚いています。試乗された方の多くから、なぜ早く売らないのかと言われるのは嬉しい誤算でした」。そう語る姉川氏の顔は、電気自動車の開発に取り組んで良かったという感じで自然にほころぶ。

東京電力で実際に利用している試作車。
「でも、我々(東京電力)にできることは、あくまでも応援なんです。車メーカーや電池メーカーが本気になってもらうことで、はじめて時代は動きます」と姉川氏は語る。
車を開発・生産するメーカーにとって、電気自動車の本格的な普及時代に入ると、今までとは商品カテゴリーが大幅に変わるだろう。設計手法もラインも違ったものになってくる。本格的な電気自動車への市場参入に対する迷いは当然あるはずだ。
自動車メーカーが本気になれる環境を整え、後押しすることで、地球にやさしい、適材適所の新しいライフスタイルを提案する──そのために姉川氏は先頭に立って旗を振る。
東京電力の社内はもちろん、様々な企業、自治体、行政を巻き込んでいく。その原動力となるのは、「地球にやさしい、人にとって住みよい世の中にしていきたい」という大儀そのものである。
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