(中島 敦司)
「新しいビジネスのススメ(1)」と「同(2)」で整理したように、近自然ビジネスは以下の特徴を持つ。
1)環境に対する負荷が低い
2)太陽に由来する再生(自然)資源と再生(自然)エネルギーを徹底利用する
化石資源や原子力からの「解放」を目指す。
3)省エネルギー・省資源を進める
4)マンパワーを活用する
人が生み出す労役はもちろん、アイデアや情報にも正当な報酬を払う。
これらをさらに膨らませ、近自然社会に適合したビジネスのより明確なイメージを提案したい。取り上げるテーマは以下の通りである。
前編
1. 農林水産業
2. 資源・エネルギー産業
3. 製造業
後編
4. 販売業・サービス業
5. IT関連
6. 建設業
7. 行政
1. 農林水産業
近自然社会では、再生資源と再生エネルギーの利用を重視する。太陽の光・熱エネルギーを変換してできる炭水化物などのバイオマス(生物資源)を積極的に活用したい。
近自然社会にとって、農林水産業は非常に重要な産業だ。農林水産業は、バイオマスを生産・獲得する産業だからである。同時に、自然環境と同じメカニズムで、大気中のCO2を生物の身体に固体や液体として固定してくれる。多面的な公益機能(「森林と公益機能(1)」および「同(2)」)の確保にも重要な役割を果たしている。
農林水産業の近自然化に重要なことは、以下のように整理できる。
1)年間の成長(繁殖)量以上に収穫、獲得しない
2)農薬など化学物質の大量使用で生態系の「つながり」を断ち切らない
公益機能を大幅に減少させるような生産や収穫では、最終的に社会が損をする。
3)資源・エネルギーの投入は、収穫できる資源・エネルギーの量を上回らない範囲にとどめる
CO2については、ガソリンなどのCO2投入量と、農産物に含まれる炭素の重量差で考えると分かりやすい。
肥料などは、地域で得られる有機物の投入を基本とする。
4)可能な限り粗放管理とし、その上で、単位面積当たりの生産量最大化を目指す
大量に肥料を投入し過度に高い土地生産性を確保しようとしても、一時的な効果しか持たない。結局は、徐々に土地生産性を下げてしまい、農業の持続性を下げることになる。
5)地域性を重視した作目とする(特に農林業、栽培漁業)
6)生産現場からの「移出」を防止する
化学物質、遺伝子(生物移出)、廃棄物、極端な騒音や臭いなど。
7)ランドシャフト(景観、情景)を壊さない生産現場とする
8)消費者や周辺住民が安全と安心を確保できる生産体系を維持する

写真1 生態系の「つながり」が再生し始めた無農薬・有機栽培の水田
写真(右)のバッタのような生物が現れ始めた。「新たな害虫」にもなる可能性もあるが、食物連鎖など生態系のつながりがさらに強まれば、その害の程度は小さくなる。害を完全に無くそうとするから、農薬に頼りたくなるとの指摘がある。害などによる減収分を価格で補うなら、無農薬・有機栽培への変更も楽になり、消費者も安全な食料を手にすることが容易になる。

写真2 棚田は日本人の心の景色「情景」に訴える効果がある
生産効率の悪い伝統農法も、ランドシャフトを維持することの価値を認めて、ある程度は残したいものだ。ただし、かつてのランドシャフトをありのまま残そうとすると、農法そのものも昔のままにしなければならないという矛盾もある。
農地の生産性を持続させるためには、地力のオーバーユーズ(「森林と公益機能(2)」)を防ぐことが重要だ。しかし、これを守ると、生産、収穫の方法、獲得量を制限せざるを得ない。その上で自給率を上げるとなると、土地生産性を上げるか、大面積の農地を確保するかのいずれかが求められる。土地生産性を高めるためには、肥料などを持ち込む必要があるが、その上限は、6)で示した範囲内ということになり限界がある。
このため今後日本では、国内だけでは土地が不足することが予想される。農業の生産力を高めることと同時に、消費量を減らすことも考える必要があるだろう。ただしこれは、必要な物資の消費まで減らすということではない。食べ残しや生産上の無駄(「日本の農業の現状と問題点」)などをなくすことが出発点となる。
消費者は、環境負荷を無視して生産された季節外れの野菜や、あまりにも安価な食品を「求め過ぎない」ようにしたい。消費者が低負荷で生産された旬のものを求めるなら、生産する方も、求めに応じて近自然化せざるを得ないことになる。
1)〜8)の「制限」を設けると、農林水産業の従事者1人当たりの生産量や収穫量は減少する。近自然社会は「マンパワー」に対して正当な報酬を支払うことを重視している、また農林水産業が多くの公益機能の維持をつかさどっていることから考えて、減産分は社会が補う必要がある。生産者に一律に補助金を出す方法が考えられるが、環境負荷の小さい農産物の生産、および環境負荷の程度に応じて報償を出す方が、競争原理を下げないので適切だろう。その際、消費者に補助金を出してもよい。近自然な農林水産業がビジネスとして成立するための要件を社会がととのえる必要がある。

写真3 環境負荷の小さい農産物を適正な価格で販売しているドイツのマーケット
交通網も、このマーケットに人が集まりやすくなるよう整備している。このような社会全体での取り組みが、農林水産業の近自然化を速める。なお、アンケートをとると、日本でも20%程度の価格アップならば消費者はスンナリ受け入れるようだ。
農林水産業は、太陽エネルギーによるバイオマスを有効利用する近自然社会にとって重要な産業である。環境面からも社会に貢献できる農林水産業は、生産者が多くの利益を得られるように展開することが望まれる。そのためには、生産者だけでなく、消費者も含めた社会全体で近自然化に取り組んでいくことが不可欠だ。消費者は、購入という行為を通じて、農林水産業の近自然化を進めていく力があることを忘れないようにしたい。
2. 資源・エネルギー産業
近自然社会は、物質的な豊かさの確保を否定しない。ただし、確保するための方法論や技術には制限を設ける。資源・エネルギーを供給する産業の基本は、以下のように整理できる。
1)環境負荷ゼロを理想とする
生態系内からのみ資源・エネルギーを得ている限り、負荷はゼロとできる。
その資源・エネルギーは、再生資源・エネルギーである。
太陽光発電、風力発電、燃料電池などの新技術でも、どこかに大量の化石燃料などの負荷が「隠れて」いないか注意する。
2)資源・エネルギーは地産地消を基本とする
再生資源・エネルギーは、どこにでもある「分散資源」である。
石油など「集中資源」は、再生資源が不足した際の補助的役割に押さえる。
3)単独の資源・エネルギーに依存しない
過去の失敗を繰り返さない。
森林資源に依存した昔 → はげ山だらけ → 災害の頻発
化石燃料に依存した近年 → 地球温暖化など環境問題
4)いずれ枯渇して無くなる化石資源、化石燃料、原子力に依存しない
持続を狙うなら枯渇しない再生資源・エネルギーが有利な選択。
石油だけでなく、原子力も、近年、注目されているメタンハイドレートも枯渇する。
5)変換・利用効率の高い資源・エネルギーの販売と運搬を心がける
仕事量の大きさよりも、効率(無駄の少ないこと)を重視する。
電気でなくてもできる「仕事」に電気を使わない(水を温めるなど)。
エネルギーの長距離運搬はロスが多いので避ける。
6)原子力など、社会不安の材料となるものの活用は基本的に「やめる」
危険と社会不安は別物(安全をデータだけで判断しない)と考える。
利点があっても、他の道を探る。
現在、利用しているものは、廃止の方向に向けて徐々に減らす。
再生資源・エネルギーへと徐々にシフトさせる。
日本とフランス以外の先進国は脱原子力のシナリオで社会が動き始めている。
7)地域の小規模経営による資源・エネルギー事業を起業するチャンス
8)電力、ガスなど既存のエネルギー企業の将来に対する提案を行う
集中的にエネルギーを変換し、分散配付して販売する現在のスタイルから(編集注:例えば、発電所で集中的に発電した電気を送電線を通して家庭に分散配布する仕組み)、小規模発電所や個人発電によって生み出される分散エネルギーを有効活用するための「ノウハウ」や「システム」を販売するコンサルタント業、メンテナンス業に転換する。
近自然社会では、再生資源・エネルギーによって物質的な豊かさを目指す。再生資源・エネルギーの所有権はそのエネルギーを生み出す土地の所有者に帰属することになる。エネルギーの利用権を円滑に分配する調整が未来の資源・エネルギー産業のビジネスの姿となろう。再生資源・エネルギーを効率的に活用するためのノウハウをコンサルティングすることも有望なビジネスになり得よう。なお将来は、再生資源・エネルギーの所有権について、水の所有権と等しく、社会全体で「もめる」事態が予想される。
電力1単位を生産するためのコストは、原子力発電は「安く」、再生ネルギー発電など他の発電システムは「高い」との話がある。他の発電システムが高くなってしまう理由の一つに、原子力発電が「とめられない」ことが関係していることをご存じだろうか。現在の国内の総発電可能量は、夏季の昼間の電力ピークに合わせて設定されている。原子力発電は24時間とめられないため、電力ピーク時以外は、火力発電や揚水式水力発電など他の発電システムの稼働日を少なくして電力余りを防いでいる。
発電コストは、初期投資やランニングコスト、稼働率(稼働日、稼働効率)と発電システムの寿命、発電所の解体や残渣(ざんし)の廃棄・処理コストなどから求めたコストの合計を発電総量で割ることで計算される(計算式参照)。原子力が他の発電システムの稼働率を下げてしまうことを無視して計算した結果を比較して、他の発電システムが高コストだというのならば、これは根本的に間違っている。比較するなら、同じ計算方法で比較しないと不公平だ。これは科学のルールである。様々な環境問題を引き起こしたという過去の反省からすると、コストの大小だけで発電方法を選ぶことには問題がある。
実際に計算してみると、風力などでも、意外に安価に発電できることが分かる。自流式水力発電などローテクな発電システムは、24時間稼働である上、発電システムの寿命が長い。このため、結果として非常に安価になることが見込める。ローテクな再生エネルギー発電にシフトすることは、環境面だけでなく経済的にも有利であると見なすことができる。
計算式
発電コスト=(初期投資+(年間ランニングコスト+補修費)×寿命+発電所の解体や残渣の廃棄・処理コスト)÷生涯発生電力量
生涯発生電力量=発電可能容量×1日あたり稼働時間×年間稼働日数×寿命×稼働効率
※このコストの計算式と同じ考え方で、電力1単位あたりの環境負荷量も計算できる

写真4 新しいエネルギービジネスになり得る「自然エネルギー学校(NPO紀州えこなびと提供)」
市民の立場から自然エネルギーの普及を目指している「自然エネルギー市民の会」は、自然エネルギーの取り扱いノウハウを市民に対してボランティアで教えている。さらに、省エネのコンサルティングも行なっている。人の知識やアイデアに正当な報酬を支払う近自然社会では、エネルギー教育を新しいビジネスにすることも可能だ。
再生資源・エネルギー社会への変革を速めるためには、様々な制度やインフラを整備する必要がある。例えば、ドイツやデンマークなどで行なわれている、自然エネルギーを基に発電した電力を固定価格で買い取る制度などは日本でも参考になる。再生資源・エネルギーの利用は、まだまだ始まったばかり。初期投資を回収できていないため高価であり、社会が補助しないとなかなか浸透していかない。効率を上げたり価格を下げたりするための研究開発費も今以上に必要になろう。
こうした資金負担に耐える自力を有しているのは、実は、大手の資源・エネルギー企業であるかもしれない。再生資源・エネルギーは分散資源・エネルギーなので大企業のウマミは大きくない可能性も高いが、ぜひとも、大企業を含めた社会全体で取り組んでいきたいものである。
なお、近自然社会では、すべての部門において「省エネ・省資源」を進めることがベースとなる。家庭における一つひとつの行動も重要だ。資源・エネルギー産業の近自然化と歩を合わせて展開することが、近自然社会の実現を速める。
3. 製造業
製造業の本質的は、資源(原料)の形を変え、元の資源以上に価値あるもの(=商品)に変換することである。このため、安い原料を、より高い価値を持つ商品に変換するほどもうけが大きくなる。
製造業における付加価値の付け方としては、「新しいビジネスのススメ(2)」でも紹介したように、人間のアイデアを最大限に生かすことが重要だ。その際、成功報酬を得られるようにしておくと、競争原理が維持され、様々な知恵や工夫が生まれ、技術力が向上する。コストダウンは、資源・エネルギーの投入量を減らすことで実現。人件費の削減を回避することが、技術力を低下させないための要件だ。
製造業は、様々な公害や環境負荷を集中的に排出してきた経緯がある。このため私たちは、製造業が排出する負荷を一元的に「悪」と決め付けがちである。しかし、必要な物資を入手するために、消費者それぞれが個別に資源を加工するとしたら、環境に対する負荷が分散的に発生することになる。これらを積み上げると相当な量となるだろう。工場で集中して生産する方が環境対策が立てやすく、環境負荷を低く抑えることができるという見方もできる。
このことから、近自然社会において製造業が担う役割は以下のようにまとめられる。
1)社会に必要な物資を、低コストかつ低負荷で生産する
負荷を集中できる利点を生かす。
2)集中的に生産することで環境対策が立てやすい
物資の総供給量の減少を実践できる業種と位置づけることができる。結果として、物資の総需要量の減少にもつなげていくことができよう。
さらに、リサイクル原料を利用した生産にも大きな期待が持てる。例えばカスケード利用(「森林と公益機能(2)」)やマテリアル(原料)リサイクルを行ない、原料が持つ価値を可能な限り長く存続させることで、石油など有限な資源の枯渇を防止することができる。
石油から製造したプラスチック製品をゴミとして燃やすなら、製品として価値しか持つことができない。廃熱利用(サーマルリサイクル)をしても、製品+熱の価値しか持たない。しかし、カスケード利用すれば、地下から汲み上げた石油に何度も価値を与えることができえる。
加えて、これ以上の石油の汲み上げを抑制することにもつながる。ただし、リサイクルのために、元の原料以上の化石燃料を投入する意味や価値はない。リサイクルするにしても、再生エネルギーで行なうことが適切だ。
石油が環境に良いということはない。しかし、既に汲み上げてしまったものは、可能な限り長く有効に使用した方がよい。その際に発生するCO2などの環境負荷は、生態系に緩やかに吸収・分解してもらう。
石油は化石資源なので、使用する際にC02を排出すると思われがちだ。だが、それは燃やすときのことであって、固体や液体のまま使用するならば、現在の科学技術のレベルにおいては、有用な原料の一つとなる。
使い方と取り扱い方を適切にするならば、再生資源の活用を徹底できるようになるまでの期間限定で、近自然社会にも受け入れられる可能性がある。もちろん、現在のように大量消費を支えるために使用し続けるならば、地球温暖化など環境問題をより深刻にしてしまうだろう。
近自然社会では、どこにでもある再生資源・エネルギーを積極かつ有効に利用することが、社会と環境を持続させるための要件になる。資源の長距離運搬は、たいての場合、環境負荷が大きいので避けたいものだ。すると、製造業で用いる原料やエネルギーは、地域にある自然資源の活用を理想とすることになる。それが実現すれば、多くの商品アイテムに地域色が出てくることにもなろう。
これは、製造業が、世界的な規模で物資や文化が「均質化」していることを問題として取り上げている様々な分野のスローライフ運動にも適合できるようになることを意味する。高品質で寿命の長い製品を正当な価格で販売することで、製造業だけでなく社会全体が、現在の環境問題の多くから解放されることになる。
世界規模で複雑に入り組んだ現在のモノ、コト、カネ、ヒトの流れを変えることは容易ではない。しかし、大量消費を助長する製造業者の未来は明るくない。消費者の「求め過ぎ」を助長させないビジネス展開が、自身の事業を持続させるためにも重要だ。なぜなら、現在の使い捨て、大量消費社会が環境問題を引き起こしている主因であるからである。それを止めない限り人類の未来も暗くなる。製造業だけが繁栄し続けることはあり得ない。
製造業は、低負荷で高品質なものを製造することで、近自然社会の中で高い地位を築くことが可能となる。「匠(たくみ)」のように、人々の尊敬を集めることだってできる。
消費者も、企業の規模にかかわらず、環境負荷の小さい工房や工場で製造された商品を優先的に選択することが重要だ。そうすれば、製造業も近自然化せざるを得なくなる。「スローインダストリー」がビジネスとして成立するためは、消費者の力が不可欠だと言える。
注)メタンハイドレート:海底に沈殿している、メタンガスと水の化合物のこと。シャーベット状になっているので、「凍った天然ガス」と考えればよい。不安定なので、人間が使おうして地表面に持って来ることも、地表面で安定させておくことも難しい。
海底に降り積もった生物の死骸などが分解されてできたメタンが、低温・高圧条件下で水分子に取り囲まれた。1m3のメタンハイドレードを分解すると、水0.8m3とメタンガス約172m3(大気圧下、0度)が得られる。試算によると、国内で、7.4兆m3が埋蔵されている。これは、近年の国内の天然ガス消費量で換算すると約100年分に相当する。
埋蔵量が多いため、次世代のエネルギー源としての期待が大きい。しかし、メタンハイドレードが持つ潜在的なエネルギーより、地表まで運搬するエネルギーのほうが現時点ではるかに大きいなど、実用化には程遠い。
また、メタンハイドレートも化石燃料には違いなく、大量使用するとCO2を大量排出することになる。加えて、メタン単体の100年間における地球温暖化係数はCO2の21倍ある。温暖化に対しての危険性も大きな資源だ。現在沈殿していると見込まれている量が大気中に噴出すると、平均気温が10年間で4度も上昇するという試算結果もある。
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コメント一覧
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まことに,ごもっともなお話だと思います。今少し具体的だとよりイメージが湧くと思います。
「近自然社会に適合したビジネスのより明確なイメージを提案したい」と言うことですので,下記について,具体的に実行できるどのような方法を考えておられるか?お聞かせ下さい。
・年間の成長(繁殖)量以上に収穫,獲得しない。
・消費者や周辺住民が安全と安心を確保できる生産体制
・マンパワーに対して正当な報酬を支払うこと。
・人間のアイデアを最大限に生かすことが重要だ。その際,成功報酬を得られるようにしておくこと
・環境負荷の小さい工房や工場で製造された商品をどうやって探すか?
また,
・今後日本では,国内だけでは土地が不足することが予想される。
が今一つわからないのですが?,
武田様
中島@著者です
ご指摘ありがとうございます。まったく「難しい」宿題をいただきました。どこから手を付けて良いのか,正直いって,途方に暮れております。しかし,せっかくのご指摘ですので,私の分かる範囲,考えている範囲のことを中心にレスさせていただきます。なにか,追加でのお考えなどがあったら再度ご指摘下さい。なお,武田さんからは短いご指摘ではあったものの,内容は,とても奥の深いものでしたので,長文になってしまいますことをお許しください。
さて,「具体的に実行できるにはどのような方法があるか?」という宿題でしたが,「当事者にお任せ」ということが基本になるとは思います。その際,判断しやすいネタを提供できればということから,私の考えを述べます。
【年間の成長(繁殖)量以上に収穫,獲得しない】
これは,文字通りのことなのですが,どうやって「年間」を把握するかという方法と,「年間」の考え方については,以下のように考えます。
まず,「年間」の把握の仕方ですが,農地などで1年生のもの生産物の収穫を行なっている限り,「年間」を上回ることはありません。むしろ,根や枝葉を農地に残してあげれば土中には蓄積されていきます。ただし,無肥料の状態でのことです。
しかし,収穫量を増やすために外部から肥料などを持ち込むなら,持ち込んだ量と同じ量は,どこかに還元しないと,全体では「年間」を上回ることにもなりかねません。肥料などは,外部で生産されたものだからです。つまり,農地から収穫として持ち去れる可能量は,外部から持ち込んだ量を差し引いて,その残りの増加分ということになります。ところが,持ち込んだ量が,他所で年間に生産された,例えば植物の枝葉に納まっているのなら,トータルとしては「年間」を越えたとは言えないでしょう。問題は,石油などを原料につくられたものを収穫物の重量などに加算してしまうことです。もしも,そうならば,持ち込んだ石油と同量の炭素などは,どこかにストックしておかないと地球温暖化に「貢献」してしまいます。この計算は,簡単ではないので,可能な限り地域で得た有機物による有機農業に切り替えることを,大きな目標にあげ,実現していけば良いと考えます。まあ,「地域」をどこで区切るのかは,それこそ皆で相談して確認することでしょうが・・
続いて,「年間」の考え方ですが,「年間」に成長した「もの」しか使用できないとするなら,林業などでは,年間の蓄積量だとすると「枝」「葉」しか使えなくなります。漁業では,稚魚しか利用できなくなります。これは非効率だし,利用の際の価値も高くなりません。なので,資源量ということを意識し,様々な統計データなどをもとに,「単位面積あたりの年間成長量×面積」で得た,地域や管理地全体の年間成長量合計を上回らない収穫にとどめておけば良いことになります。その際「水の量」なども勘案したいですね。林業では,皆伐する面積単位で考えるか,抜き切りする立木数で考えるかは土地の状況などによって同じにはなりませんが,その限界量は,一時的にせよ多面的公益機能を下げない範囲ということが基本になります。
本件,とても難しいことですが,実現できれば,一次産業における環境負荷を大幅に減らすことができるでしょう。
【消費者や周辺住民が安全と安心を確保できる農業生産の体制】
これは,大枠で二つの方法が考えられます。
一つ目は,最初から生産者と消費者や周辺住民が直接つながっている信頼関係の中で流通も農地運営も行なうというものです。一種の産直ですね。インターネットのようなつながりもありえると思います。双方の顔が直接見える中でのことですので,注文生産のようなことも可能になるかも知れません。
二つ目は,ラベルによる「保証」が考えられます。互いの顔は見えませんが,これも,信頼関係を基本に置いています。
いずれも,不正やごまかしがあった時,信頼を失って販売不振になる,つまりペナルティー的に作用しますから,生産者は信頼を失わないように努めることになります。消費者は,生産者の努力に正当な報酬を支払うことに努めないダメでしょう。片側だけで実行できるものではありません。
ざくっとした一般論ですが,農薬&化学肥料「慣行農法」と比較して,環境負荷の小さい農業での収穫減少,人件費のアップを埋めるとして,廃棄や返品など流通ロスの縮小と20%程度の価格アップによって生産者は大きくは困らないと聞きます。消費者は,偶然にも20%程度の価格アップならすんなり選ぶ人が多いようです。
一方,生産技術ですが,一概に整理することは,流通のことよりも難しいと考えられます。まず,化学肥料の流出を防ぐため,有機農業を行なおうとしても,危険な物質を含んでいない安全な有機物を必要量確保することは容易ではないということです。地域によって,確保できる有機物の品質も,量も一定ではありません。農薬の変りとなる防除の方法にしても同様です。これらを組み合わして,農産物も安全にしながら,周辺環境への悪影響も出さないということが重要でしょう。そのキーワードは,やはり,有機農業ではないかと思います。
なお,外部への栄養分の流出(移出)防止に対しては,農地の境界に緩衝帯(バッファーゾーン)を儲けたり,単位面積あたりの生産限界量に制限を設ける(例えば,単位面積あたりで飼育できるウシの頭数)などの方法もあります。
そういった農業は地域の実情(技術レベルも含む)に合わせて考えざるをえないということになります。その際,有機物を地域でまとめるシステムを持っていると,対応しやすくなります。滋賀県などではテストケースがはじまっています。ただし,有機物ならなんでも農地に返せるということではないことは確認しておきたいです。残飯などには,様々な正体不明のものが不均質に含まれていたりしますので,少々のことでは高品質で安全な有機物になりません。添加物などを大量に含んだ状態で農地に入れてしまうと,土壌汚染と同時に,作物に濃縮されることも心配されます。最後は人間の体内に濃縮されてしまいます。ところが,野菜くずなどには悪いものはあまり含まれていないものです。食品工場の製造過程などで出る残渣は,量も多いし有機肥料の原料としても品質的に優れているものが多いようです。有機物の環境に対するリスク別に投入する場所も考えなくてはいけないでしょう。なお,食品工場の件ですが,遠くから運んできた原料を加工し,その残渣でできた有機肥料による有機栽培の農産物を地域で消費することが,はたして地産地消になるのか? むずかしいものです。いきなりには無理でも,徐々に,地産地消と胸をはって言えるような状態にしていきたいものですね。
一方,林業の方は農業とだいたい同じように扱えますが,自然から収穫する漁業については,海や川などの環境を健全にしていくことが,安全なものを得る基本となります。つまり,さらに難しくなるということです。
【マンパワーに対して正当な報酬を支払うこと】
これは,「言い値」「交渉」ということがベースになると思います。間に複雑な流通経路を挟まない方が,生産者,消費者ともに分かりやすくなるでしょう。宮崎駿氏のアニメ「紅の豚」の中に,田舎において物価が高いことに文句を言ったヒロインに対し,主人公は「もちつ,もたれるなんだ」と諭しますが,こういうことも,正当な報酬の一形態でしょう。この方式が意外にウマクいくことは,名古屋の商圏が証明していると思います。
一方,マンパワーの中で重要なものに「アイデア(知的所有権や工夫,知恵など)」がありますが,これを保護することは容易ではありません。しかし,保護しないかぎり,正当な報酬を支払うことなど不可能になりますので,特許などの制度などがあるわけです。これを機能させることは重要ですが,一般消費者には分かりにくいものです。オリジナルであるものを優先的に選択するところから始まると言えるでしょう。
「正当な報酬を支払う」のは,消費者になります。なので,消費者が心がけることが重要です。生産者に「ただ働き」させないようにすることが基本です。このことは,近年,行政がNPOや業者との関係で,率先して「ただ働き」させている傾向がみえるので,特に注意が必要です。「ただ働き」させると,最後は自分にツケが返ってきますので,止めた方が良いですね。
【人間のアイデアを最大限に生かすことが重要だ。その際,成功報酬を得られるようにしておくこと】
これは,特に,企業など組織内で重要になります。労役だけで報酬を決めるだけでは良いアイデアもでないものです。時間を努力しただけで決めても同じです。良いアイデアに報酬を出せば,知恵や工夫もどんどんでます。様々なチャレンジも生まれます。コンクールのようなことがあっても良いでしょう。このような,人間の心理も考えた報酬の支払いをすることは,組織にとって有利に作用するものだろうと思います。褒められるのって,嬉しいものですから。
組織外ってことになりますと,やはり,商売などにつながることが重要でしょう。消費者も,同じ価値なら,アイデアの感じるものを選択することで,社会全体の技術力も上がり,結局は自分が得をするということを理解することが大切だろうと思います。
つまり,いずれも,仕事や消費を通じて「評価」するという意識が,自分が得をする行為だと理解したいものです。流通過程でも同じです。くれぐれも,価格が安い「だけ」に評価の方向を向けないようにしたいものです。その安さの裏側で環境負荷が大量ということは,深刻な環境問題へとつなげてしまうものですから。
【環境負荷の小さい工房や工場で製造された商品をどうやって探すか?】
これも,「交渉」ということがベースになります。さらには「説明」と「理解」も重要です。【マンパワーに対して正当な報酬を支払うこと】と同じようなことになりますが,生産者の顔が見えることならば,比較的容易に探せるのではないでしょうか。顔を見せることのできない規模の生産者や製造業は,製造・流通過程での「環境負荷が小さい」ことが付加価値になることを活かした事業展開で,損をしないようにしても良いと思います。「信頼」を商売ネタにすることの優位性は,ここでも現れます。実際に,そのような事業展開も目だってきたと感じます。その際,「隠れみの」にさせない力は,消費者の方にあることを自覚しておきたいものですね。日本人は,どうも,色んなことをすぐに許しちゃう傾向があるので,アメリカまで厳しくするのも辛いですが,今よりはもう少し,厳しくしても良いように思います。特に,業界ぐるみのような大規模な範囲での不正や努力不足には厳しく接して良いのではないかと感じます。
なお,消費者の方は,「だまされない」賢さと,「見抜ける」能力がないと損をします。直接的な損だけでなく,環境問題を通じた間接的な損も含まれます。その反面,消費者の要求が,製造業の環境負荷を大きくさせてしまうことも非常に多いので,それは,自分にとって損だということを自覚したいものです。価値観の変革なんかに頼らなくても,自分にとって本当に得なことは何か?,もういちど考え直したいものです。
【今後日本では,国内だけでは土地が不足することが予想される。】
これにつきましては,明確な根拠データは示せません。エネルギーのところで示したコストの計算式と同じように考えるならば,日本に必要な(農地)面積は,
年間の総消費量 ÷ 単位面積あたりの生産可能量 ÷ 面積
になります。また,生産可能量には,生産に必要な物資の量も含まれます。こう考えると,主食ですら自給率が低い状態ですので,年間の総消費量を下げない限り,大量の面積が必要になります。ところが,休耕を復活させても,自給率には届かないということは今のところの傾向です。すると,土地が足りないと,そういう結果になるわけです。いろいろな経済学者が,現在の日本の土地利用で賄える人口は,2000万人だとか,7000万人だとか言われます。さらに,生産段階での環境負荷を減らすため,有機農業などへシフトしていこうとすると,単位面積あたりの生産量は低下しますから,さらに広い面積が必要になります。片側では,「土地利用の固定化」のようなことも,環境対策の中では重要になります。宅地などの市街地を農地に戻せるなら良いでしょうが,その逆はあっても,なかなかできないものです。政策ベースで強制的に対策できるのなら多少は変りましょうが,それもままならないのではないでしょうか。
そうなると,総消費量を減らして,これ以上は土地不足にさせないことと,現在の農地を減らさないことが,最初の一歩であり,か重要な対応となります。農地は,簡単には生産を安定できませんので,休耕しなくすむ政策,消費が大切だと考えます。農地保護は,国土保全の重要な対策のひとつです。森林保護も同時であることと同じです。
とても長くなってしまって申し訳有りませんでした。1コラム分の分量になってしまいましたが,まだまだ不十分なレスだと思います。いくつかは,既に提出してある次回の原稿にも書いてありましたので,そちらもご参照下さい。
武田様
中島@著者です
先程の
年間の総消費量 ÷ 単位面積あたりの生産可能量 ÷ 面積
ではなく,
年間の総消費量 ÷ 単位面積あたりの生産可能量 = 必要面積
の間違いでした。おわびして修正します。