(山脇 正俊=近自然学研究家)
5. 成長の呪縛から解放された新しいビジネス
企業でも国家でも、今までのビジネスは、毎年確実に成長することを健全経営の前提条件としていた。しかし、そんなことがそもそも可能なのだろうか?
毎年2%ずつ売り上げやGDPを成長させるためには、70年後には現在の4倍の生産量と消費量が、そして、140年後には現在の16倍の生産量と消費量が必要となる。
これを具体的に表現すると、70年後の2075年には、
- 老若男女を問わず現在より4倍多くの靴クツ、セーター、シャツなどを買う
- 現在より4倍多いゴミや粗大ゴミを出す
- 現在より4倍多い食事を摂り、4倍多い残飯を捨てる
- 2年ごとにアパートの家具を取り換える(スイスでは約10年ごとと言われる)
- 現在より4倍多い家を建てる
- 現在より4倍多い道路を造る
など
ということになる。これらが本当に我々の豊かさに貢献するのだろうか?
使い捨て、ゴミ、コンピュータ・ウイルス、通勤時間、肥満、花粉症、鬱病、ストレス、BSE(狂牛病)、鳥ウイルス…。これらが我々の豊かさに貢献しないことは自明だろう。しかしながら、経済活動としてGDPの向上に寄与しているとも言える。つまり、経済の成長にこだわると、我々が欲しないものまでポジティブにとらえてしまうという、おかしなことになりかねないのだ。
一方、環境との共生共存を目指す新しいビジネスは、我々の豊かさに貢献するものである。環境共生ビジネスは、永遠の成長という幻想・神話を捨て、その呪縛から解き放たれるところから始まる。
6. 環境共生に適合したコストダウンのし方

表4:コストダウン
環境共生ビジネスとはどんなものか、なかなかイメージしにくいかもしれない。具体的にはどんなものなのだろう?
まず、コストダウンのやり方が変わる。
コストダウンというと、人件費を削減することが当たり前と思われている。リストラがその典型であろう(本来、リストラとは構造改革のことで、クビキリのことだけではないはずだ)。多くの企業や行政がそれを実行すれば、失業者が街に溢れる結果となる。失業者は社会が支えなければならない。社会とは我々のことだ。つまり、我々への負担が増し、我々は貧しくなる。これは得策ではない。
また自由経済では、過当競争のため、いわゆる価格ダンピングが起こりがちだ。これでは長期的なビジネスは成立しない。利益を上げられないために、脆弱な企業は倒産せざるを得ない。その結果、少数の強大な企業のみが市場を席巻することにもなりかねない。そうした状況は、最終的には社会、つまり多くの市民にとって不利益となるので避けたい。
環境共生共存の実現のためには、地下資源と石油エネルギーの使用を低減することでコストダウンを実現するのがよい。なぜならば、環境負荷が少なくなるからだ。それに、日本には地下資源も石油エネルギーも乏しい。それらを節約することは、日本人と日本経済にとって大きなメリットとなるだろう。

写真1:正しいコストダウンの例(近自然の川)
不要な護岸工事などを施すことなく、川のダイナミクスを生かした川づくりをしている。地下資源と石油エネルギーを節約することでコストダウンを実現。と同時に、マンパワーによる維持管理で付加価値をアップしているとも言える。
7. 環境共生に適合した付加価値アップのしかた

表5:付加価値アップ
付加価値の高め方も変わる。
これまでは、地下資源と石油エネルギーの投入による付加価値アップが一般的であった。しかし、地下資源と石油エネルギーの投入は環境負荷が大きいことが分かっている。しかも、日本には地下資源も石油エネルギーもほとんどない。これらで付加価値をアップしても、最終的に日本人の手元には大きな利益が残らないではないか。あまりうまいやり方とは言えないだろう。

表6:マンパワー
環境共生ビジネスでは、付加価値アップをマンパワーの投入によって実現する。マンパワーとは、頭で考えた秀でたアイデアや情報、巧みな手作業、そして力強く洗練された肉体労働などのことだ。マンパワーの投入で付加価値をアップすれば、地下資源と石油エネルギーを利用するのに比べて支出がそれほど多くならないので、収入のほとんどが手元に残る。つまり、我々が豊かになれるではないか。

写真2:正しい付加価値アップの例(芸術、匠の技)
マンパワーの投入により付加価値をアップし、それが素晴らしい魅力とオーラを放つ。

写真3:間違った付加価値アップの例(コンクリートだらけの川)
地下資源と石油エネルギーを大量に投入して付加価値をアップしようとすると、環境負荷が大きくなる。資源とエネルギーの乏しい日本は豊かになれない。
8. 収入(売り上げ)から所得(利益)への転換

表7:収入から所得へ
かつて我々は豊かになるために収入(売り上げ)を増やそうとした。そのためには生産量を増やす必要がある。必然的に地下資源と石油エネルギーを集中投入することになる。これが資本の集約化だ。確かに、収入は増えるが、地下資源と石油エネルギー(機械や設備なども)への支出も飛躍的に増える。そうすると、手元に残る所得(利益)はそれほど増えない。
それどころか、高価な機械や設備への投資のために、借金が増えることになる。これでは、借金の利子を返済するために働いているようなものと言えまいか。楽しいビジネスとはとても言えないだろう。
新しいビジネスは、収入は減ってもよいから、所得が増えることを目指す。そのためには、環境負荷を伴う支出を極限まで抑えたい。それが、地下資源と石油エネルギーの投入量を減らすとともに、秀でたマンパワー(つまり人件費)の投入をうながすことになる。
もちろん、ことはそう簡単ではない。しかし、豊かさと環境とを両立させる近自然ビジネスの基本原則として挑戦したい。
9. ライフスタイルの転換とビジネス

表8:意識改革から始まる
欧州を中心に、環境に対する人々の意識が高まっている。意識改革は人々の日常生活を変える。それが新しいライフスタイルだ。意識改革は目で見えないが、ライフスタイルは目に見える。ライフスタイルが変わると、その新しい生活に必要なものは環境に配慮したものとなる。つまり、ニーズが変わるわけだ。そのためにマーケットと流通も変わる。環境に配慮すると、商品を変えるのはもちろん、その流通も考えないといけないからだ。産地直送などはその好例だろう。
新旧のライフスタイルとはどんなものか?

表9:今までのライフスタイル

表10:これからのライフスタイル
今までのライフスタイルを続ければ、環境負荷がさらに高まる、国内の雇用が減る、そして最終的に我々は貧しくなるように思われる。それに対して、これからのライフスタイルに切り替えれば、環境負荷を小さくし、国内の雇用を確保し、我々は豊かになれる。良い物を使えば、豊かな気持にもなれる。
人間社会を持続させるためにどちらが良いかは自明だ。ただし、ライフスタイルの選択は個人に委ねられるのがよい。現実として、どちらか一方だけしかない世界は想像しにくい。高価だが高品質(高性能、長寿命)の物と、安い割にはなかなかの品質の物が適当な比率で同居することになるだろう。
ただし、環境負荷ペナルティーが導入されれば、安物を使い捨てする環境を食い物にしたビジネスは成立し得ない。ゴミ収集が有料化され、物を捨てることにお金がかかるようになるので、安いだけの商品は生き延びることができないに違いない。
10. 環境共生は新たなビジネスチャンス
人々のライフスタイルが変わってニーズが変わると、新しい商品が必要となる。もしかしたら、全く新しい分野のビジネスが生まれるかもしれない。新しいライフスタイルを思い描くことができれば、人々が何を求めるのかを想像するのは、それほど難しいことではないだろう。
太陽光、太陽熱、風力、水力、波力、バイオマス(生物資源)、地熱、潮汐といった再生エネルギーの利用は、これから有望な分野だ。その意味で、一次産業に新たな革命が起こる予感が筆者にはある。風力の分野では、小型の縦軸型風車を各家庭の屋根に設置して、主に動力として利用することになるだろう。燃料電池は小型のポータブル型が有望だ。大型の燃料電池では、廃熱も利用できる、コ・ジェネレーション・システムのみが生き残るだろう。

動画1:新しいビジネスチャンスの例(縦軸型風車)
風力は小型の縦軸型風車を各家庭の屋根の上に設置し、動力として利用するのがよい。
そのほか、いろいろなものが考えられるが、皆さんが知恵を絞ってビジネスを成功させていただきたい。それこそ、頭を使ったマンパワーによる付加価値アップであり、環境共生ビジネスの基本なのだから。
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コメント一覧
この記事のコメント受付は終了しました。
いつも興味深く拝読しています。
今回の「環境共生ビジネスへのススメ」は、大きな社会の変換を予測できますね。すべてが「意識改革」から始まると感じています。個々の意識改革が決め手となると同時に、「企業の意識改革」(トップの、といれた方が良いでしょうか)が持つ影響の大きさも、時折みることができます。そんな動きを応援するためにも、それを支える市民の力も大切ですね。情報発信(信頼できる)の力は大きな影響を与えることになると思うのですが、意識改革の進むヨーロッパでは何が中心となっているのでしょうか?
弊社を初め、企業をみると、企業体質の改善による利益の創出が今最も優先され、株主にありがたがれる企業像を構築する事に邁進しています。その意味では、どういうやり方でも会社が元気になれば言い訳で、環境とか、従業員の処遇などは、後回しとなっています。環境に配慮する経営とか、まだまだ遠い目標といえます。
人が企業を作ると言っても、簡単に熟練者を切り捨て、年功序列を
簡単に廃する今の企業経営は、将来のビジョンなど、眼中になく、今を生き抜く、他の企業に引けを取らないことが一番としている現実で、このお話は、大変うらやましく、将来のビジネス創出として是非、経営者に読んでいただきたいと思った次第です。
弊社を初め、企業をみると、企業体質の改善による利益の創出が今最も優先され、株主にありがたがれる企業像を構築する事に邁進しています。その意味では、どういうやり方でも会社が元気になれば言い訳で、環境とか、従業員の処遇などは、後回しとなっています。環境に配慮する経営とか、まだまだ遠い目標といえます。
人が企業を作ると言っても、簡単に熟練者を切り捨て、年功序列を
簡単に廃する今の企業経営は、将来のビジョンなど、眼中になく、今を生き抜く、他の企業に引けを取らないことが一番としている現実で、このお話は、大変うらやましく、将来のビジネス創出として是非、経営者に読んでいただきたいと思った次第です。
=筆者からのレス=
まきばの優子さんのコメントに
「いつも興味深く拝読しています。」
どうもありがとうございます。
皆さんにバックアップしていただいてるお陰で、当初の10回程度の予定が思わぬ長期連載になっています。
「今回の「環境共生ビジネスへのススメ」は、大きな社会の変換を予測できますね。」
その通りです。
しかしながら、そのカギを握るのは、我々ひとりひとりだと思います。
「すべてが「意識改革」から始まると感じています。個々の意識改革が決め手となると同時に、「企業の意識改革」(トップの、といれた方が良いでしょうか)が持つ影響の大きさも、時折みることができます。」
全く同感です。
「そんな動きを応援するためにも、それを支える市民の力も大切ですね。」
これは絶対に必要です。
民主主義の歴史が長いヨーロッパでは特にそうですが、日本もすでにそうなりつつあると感じています。
「情報発信(信頼できる)の力は大きな影響を与えることになると思うのですが、意識改革の進むヨーロッパでは何が中心となっているのでしょうか?」
正確な情報提供は意識改革にとって大きな役割を演じます。
現在ではインターネットなどの新しい電子メディアが台頭しており、その重要度がどんどん高まっています。このコラムもそんな媒体を使った物ですね。そうではありながら、インターネットから得られる情報はあまりに膨大で、途方に暮れてしまいます。同時に玉石混交であることも事実でしょう。
少なくともスイスでは、大きな環境保護団体が定期的に配布している機関誌や本などの紙媒体の信頼性と影響力は、いまだに揺らいでいないようです。
それに、多くの保護団体が共同で張るキャンペーンの効果はとても大きい物があります。
=筆者からのレス=
西野博之さんのコメントに
コメント、どうもありがとうございました。
「どういうやり方でも会社が元気になれば言い訳で、環境とか、従業員の処遇などは、後回しとなっています。環境に配慮する経営とか、まだまだ遠い目標といえます。」
残念ながら、確かにおっしゃる通りで、スイスでも同様の傾向を見ることができます。
「人が企業を作ると言っても、簡単に熟練者を切り捨て、年功序列を簡単に廃する今の企業経営は、将来のビジョンなど、眼中になく、今を生き抜く、他の企業に引けを取らないことが一番としている現実で、」
もちろん倒産してしまえば元も子もなくなるのですが、なり振り構わず、次世代にツケを残してでも生き残ろうという姿勢も支持できません。そこで、近自然学では持続し得る方法を提案しているのです。経営がうまくいって経営者にとってもよく、能力や努力が活かされて従業員にとっても好ましい、そんな提案です。
「このお話は、大変うらやましく、将来のビジネス創出として是非、経営者に読んでいただきたいと思った次第です。」
全くですね。
何度か企業の経営者や役員達を相手に講演する機会がありましたが、近自然ビジネスの提案は好評でした。あとは実践あるのみですが、そのためには「環境負荷ペナルティー」と「環境貢献プレミウム」のバックアップがカギだと思います。地球環境や次世代にツケを残す環境負荷がタダで、社会全体に不都合なリストラ(クビ切り)などが社会的な制裁を受けない。反対に、努力して環境貢献しても経済的なメリットがないのでは、経営者に近自然ビジネスの実践をしろとは、なかなか言えませんからね。
この方の文章をはじめて読んでみましたが(第22回)、あまりのつまらなさにびっくりした。
書いてあることのほとんどは、あまりに「いまさら」な感の強い陳腐かつ表層的な理想論で、しかも話の具体性が無さ過ぎる。
それと、資源の不足はアイデアで補えばいいじゃない、という意見が、私には「パンが無ければケーキを食べればいいじゃない」的な、とても無責任なものに感じられてしまう。
=筆者からのレス=
山口賢次郎さんのコメントに
大変手厳しいご批判でしたが、投稿、どうもありがとうございました。
ここまでおっしゃるからには代案をお持ちなのだと想像します 。それとも、今までのやり方のままで、環境も経済も持続し得るとお考えなのでしょうか? または、持続しなくても良いとお考えなのでしょうか? もしそうなら、これ以上のディスカッションは不毛でしょう。目指す方向が異なれば、ソリューションは全く違ってきますから。
文面からして、この紙上でのディスカッションは不適当かと思 いますので、多くは語りませんが、ひとつだけ確認させてくだ さい。
私は「資源の不足はアイデアで補えばいい」と提案しているわけではありません。見方を変えれば、日本でも資源はあると申し上げているのです。日本にほとんど存在せず、しかも枯渇することが明確な石油などに拘るのは、あまり得策ではないという意味です。
近自然学は「これこそが問題解決策だ」というような、大上段 からの押し付けではありません。閉塞感のある環境問題での、突破口のひとつの提案…つまり、たたき台に過ぎません。
様々な分野からの色々なアイデアを結集して、さらによい物に していかなければなりません。そのためにも、山口賢次郎さんのお力も拝借したいのですが、いかがでしょうか?