(中島 敦司)
前回は、森林の公益機能を持続させる対策として、森林の面積を減らさないための「ゾーニング」、森林の公益機能を下げないための「ミティゲーション」、そして「森林認証」についてお話しした。基本的には、これら三つの施策で対応できる。
しかし、これだけでは、具体的にどうしてよいのか分からない場面が出てくる。そこで、今回は、森林の公益機能を持続させる、より具体的な方法論を提案する。お話しするのは、以下の内容だ。
- 森林資源を、森林の年間成長量以上に利用しない
- 森林の公益機能を高める
- 森林の面積を増やす
4. 年間の成長量以上に利用しない
前回、森林の面積を減らさないための施策についてお話しした。森林の面積を確保すると同時に、森林の公益機能を減らさないためには、自然林の伐採はやめ、材木の生産を目的とした経済林でも森林の年間成長量以上に森林資源を利用しないようにすることが原則となる。伐採量の制限などを行ない、バイオマスの量を常に一定に維持すれば、生物多様性の大幅な低下や土壌の劣化なといった生態系の貧化はほとんど起こらない。結果として、公益機能も大きく劣化しない。
年間の成長量と使用量のバランスが取れているという統計データが公表されている。しかし、バイオマスへの期待が高まっている中、森林資源の使用制限を行なうことが、資源不足を引き起こすことが心配される。公益機能を確保するためには、我々が必要とする量に合わせて伐採するのではなく、年間の成長量に合わせて我々の使用可能量を決める対応が適切だ。工夫してリデュース、リユースとリサイクルを徹底すれば、森林バイオマスの使用量も意外に少なくて済む。
バイオマス利用のための伐採を行う際、過度の伐採を行うと、土壌の劣化が起こる。土砂崩れは、人間にとって災難であるだけでなく、生態系のベースとなる土壌を失うことでもある。自然の土砂崩れは、崩壊地の生態系の確保につながるが、人間が引き起こすものは、小規模な表土の流亡であっても土壌を劣化させる。
さらに、自然の再生を進めようとする場合、劣化した土壌の再生が最も困難である。養分の補給だけならば、さほど難しくない。しかし、微生物や土壌の物理的な構造を再生するには、植生の再生よりもはるかに多くの時間を要する。土壌劣化を引き起こす初めの一歩は、過伐採、つまりオーバーユーズである。これを防止する対策の一つが、伐採量を年間の成長量以内に制限することなのである。
切りすぎ防止の観点から見た場合、地面に生えている立木を伐採する際には、一斉に全部を切ってしまう皆伐(かいばつ)ではなく、必要とする樹木だけを抜き切りする択伐(たくばつ)が理想的だ。また、伐採した後に次の樹木が成長できるよう、樹齢や高さの異なる樹木を生やして複層林に仕立てておくことが、切りすぎ防止に効果的である(写真1)。

写真1 3段階の樹齢で構成されたスギの複層林
このような、同一樹種での複層林は、いちばん高い階層を構成する高木の抜き切りが前提となるため、切りすぎ防止には効果的だ。しかし、モノカルチャーであることに違いなく、生物多様性や土壌保全機能はそれほど大きくないのに手間がかかるとの批判が少なくない。
用材林を複層林化することは、大きく成長した立木だけを択伐する技術でもある。写真3のような、公益機能を大幅に低下させる皆伐の防止には効果的だ。しかし、地形の急峻な日本では、択伐のために、林道を高密度で造成する必要があったり、ヘリコプターで伐採木を運び出す必要があったりする。このため、かえって、作業時の手間と環境負荷を増やしてしまう心配がある。
このため急峻な場所では、年間成長量を上回らない狭い面積の皆伐を行なうことが、資源確保と環境負荷低減の双方に得なことも少なくない。皆伐したら、植樹など、植生を回復させる対策を早期に講じておくことが必要だ。なお、作業上、択伐が困難で皆伐しか許さないような急峻なところは用材林として利用すべきでない、との批判があることは事実である。

写真2 広い面積を「いっきに」皆伐するから公益機能が低下する
「公益機能確保のためには抜き切りが良い」とは言え、急峻な地形では作業が困難だ。このため、皆伐せざるを得なくなってしまう。しかし、広い範囲を一気に皆伐すると、生物多様性や土壌の保持機能などが著しく失われる。抜き切りが困難なら、狭い面積の皆伐にとどめ、それをモザイク状に組み合わせていくのがよいだろう。
5. 森林の公益機能を高める
伐採などで低下してしまった森林の公益機能を再び高めるためには、森が育つのを待つしかない。理想は、このような森林の「移ろい」とうまく付き合っていくことだろう。しかし、これには、相当に長い年月が必要となる。待っている間に様々な災難に見舞われる。そこで日本では、十分な公益機能が発揮されるまでの期間を短縮するための対応が昔から実施されてきた。目標とする将来の森の姿を想定し、それに向かって森林を最も効率良く誘導する条件の整備を人間が行なうものだ。
まず考えられるのは、伐採したら植樹すること。意外に思われるかもしれないが、このようにしてきた国は、かつては日本だけだった。確かに条件さえ整っていれば、「待っていても」いずれは森林に戻る。植生は移ろう(遷移する)からだ。
しかし、ただ待っていても、自分たちの望む森の姿になる保証はない。このため、個人や社会に好都合な樹種を中心に植栽を続けてきた。かつては、「スギ10本にクリ(雑木)1本」という具合に複数の樹種を植え付けたようだが、戦後は森林を、例えば「スギの畑」のようなモノカルチャーにしてしまうことが多かった。結果として、公益機能が著しく失われた。
そのことへの反省もあって、近年は、伐採跡地にたくさんの種類の苗木を植え付ける人が増えてきた。針葉樹と広葉樹が混じりあった針広混交林への誘導だ。その土壌保持力は、広葉樹だけの森林よりも強いことが明らかになっている。森林に存在する(させる)樹種が多様になることは、林業の産業としての効率を下げるとの批判もある。しかし、材木として活用できる有用な樹種は、スギやヒノキ、カラマツなど針葉樹だけでないはずだ。これらの樹種を集中的に植樹したことは、戦後の復旧を効率良く進めるための一時的な措置に過ぎず、今では大きな意味がないとの指摘もある。
他の樹種の材の価値を上げる努力が足りない、との厳しい批判もある。つまり、他樹種の価値が上がれば、伐採跡地を多様な樹種で構成することは、作業効率の点を除けば、不都合は大きくないはずだ。また、材としての価値が小さい樹種でも、公益機能の視点に立てば等しく重要である。このため近年は、スギやヒノキの人工林の中に広葉樹の苗を植える人まで現れきた。
次に関連するのは、森林管理である。具体的には、下刈り、除伐、枝討ち、間伐などの作業だ。里山などでは、落ち葉掻きもある。複層林化を速めるためには、間伐によって森の中に光を入れるとよい。すると、材としての森の生産を助けるだけでなく、表土中に隠れていた様々な植物が芽生え、複数の樹種からなる複層林へと自然に育っていく(写真4)。下草も生えやすくなる。複層林となって生態系が多様になれば、様々な公益機能が再生、発揮される。
森林管理の目的は、4月14日のコラムでもお話した植生遷移のコントロールである。加えて、公益機能を早期に高めることにもつながる。ただし森林管理は、公益機能が低下した森林に対する施策であって、健全な自然林を伐採することは、時間をかけて蓄積された様々な環境資源をやそれらのつながりを短時間で失うことを意味する。簡単には取り戻せないので、基本的には避けるのが懸命であろう。

写真3 間伐によって複層林化しつつあるスギの人工林
林内に光が入り込むと、土壌中に眠っていた埋土種子が発芽し、複層林化が進む。間伐は、財としての生産を目指した樹種の成育を助けるだけでなく、生物多様性を高めたり、土壌の保持機能を高めたりすることにも効果がある。

写真4 間伐のいろいろ
間伐には、将来の森林にとって邪魔となる立木を選んで抜き切りする択伐的間伐法(左)と、機械的に伐採する列状間伐法(右)がある。これらは、森林の状態によって使い分けられている。狭い森林では択伐的間伐法が、広大な森林では列状間伐法が採択されがちだ。
6. 森林の面積を増やす
ここまでは、既存の森林を対象とした破壊防止策、公益機能を確保する方法についてお話した。ところが、世界中には、砂漠や都市など、不毛な土地がたくさんあって、そういう場所の公益機能は著しく低い。このため、森林でない場所へも植樹などし、公益機能の高い森林へ誘導する試みが、各所で進められている。
砂漠などにおける大規模な植林は、政府や大手企業の資金投入、あるいは募金などで集まったお金を基に、現地の住民や、各国からのボランティアで行われることが多い。それを支援する法律なども整備されつつある。
都市部では、以前から、工場や公園における植樹が活発であった。近年は、その他の市街地、特に遊休地における植樹も重視されるようになってきた。行政による植樹だけでなく、1万人規模の市民が参加して造成地への植樹を行ったり(写真6)、市民と行政が協働で植樹したり、といった活動が活発化している。街において緑を求めるニーズに応えての動きであろう。植樹には、自分の成果がいつまでも同じ場所に残るというの楽しさがある。思い出作りとして植樹が進められることもある。

写真5 活発化し始めた市民の手による造成地での植樹活動
名古屋市戸田川緑地西の森づくり:「ゼロからの森づくり」として、1万人の市民が更地に植樹を行った。2月18日、長谷川氏のコラムでも掲載。
このようにして植樹された都市林は、公益機能は大きくないかもしれない。しかし、「負荷は集中、対策は分散」という近自然学で整理された原則(詳細は、11月22日の山脇氏のコラム参照)に照らせば、街における小さな緑の積み上げは、いずれ大きな見返りとなって我々に恩恵を与えてくれることになるだろう。
以上のように、伐採後の樹林や造成地における植樹、人工林の間伐などによって、公益機能を再生することができる。しかし、総じて言えば、作業に必要な資金やマンパワーに欠ける状態が継続している。その上、森林資源の経済価値が低く扱われていること、安価に供給される外材との価格競争などを背景に、後継者問題や過疎化の問題も拡大している。日本の社会と経済の実情は、森林の公益機能を維持する観点で見た場合、決して有利ではない。
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