(中島 敦司)
前回は、日本の森林の実情と、森林の公益機能についてお話しした。では、公益機能が下がっていく原因は何であろうか? また、森林の公益機能を維持していく上で重要な視点とは何であろうか?
ということで、今回は、4. 森林が破壊される原因、5. なぜ森林が注目されるのか? についてお話しする。
4. 森林が破壊される原因
確かに、周辺に森林がなくとも、人間は生きていくことができるだろう。しかし、それがとても短い期間の繁栄に終わることは、歴史が証明している。かつて、巨大な木馬を造れるほど多くの材木を得られる森林を抱えていたトロイも、今では砂漠の中だ。レバノンスギをはじめとする森林資源を使いすぎたことが原因である。
同じように、かつて栄華を誇った四大文明は、いずれも砂漠に飲み込まれてしまった。このことからも、森林が公益機能を大幅に失うと社会の持続が困難になることが分かるだろう。
「砂漠化」という言葉を聞くようになった。砂漠化とは、乾燥、半乾燥および乾性半湿潤地域における種々の要素(気候変動および人間の活動を含む)に起因する土地の劣化のことを言う(砂漠化対処条約、1994)。一時的な裸地化との違いは、土壌の劣化があるかどうか、である。森林破壊などで植生が衰退すると、土壌は劣化することになる。
砂漠化を最右翼とした森林破壊の最大の原因は、簡単に言うと「資源やエネルギーの使いすぎ(=オーバーユーズ)」である。過放牧や過剰な伐採などは、砂漠化を引き起こす(図2)。使いすぎを防止すれば、気候的に乾燥したところでも森林を維持することが可能だ(写真5)。

図2 乾燥地の土壌劣化地図(極乾燥地を除く) 鳥取大学乾燥地研究センターより
砂漠で有名な北アフリカのサハラ砂漠やアラビア半島などは、古くから植生が成立しにくい極乾燥地であるため、土壌劣化地域の対象から外されている。それらにも色を着けると、陸上の半分くらいの地域が、土壌劣化や不毛といった問題を抱えていることが分かる。

写真5 砂漠(左)の隣に残る豊かな森林(右)
この森林は、地方の豪族の所有地で、古くから禁伐とされている。砂漠化の原因が気候だけでないことを教えてくれる証拠の一つだろう。
気候的に乾燥していない地域でも、材木を使いすぎれば、大面積の用材林(例えばスギ人工林)が必要となる。天然林が広がる熱帯林や北方林の乱伐も起こる。住宅を造りすぎるから、土地という環境資源が足りなくなってしまう(写真6)。草食動物の集中は、裸地化や植生の偏りを引き起こす(写真7)。

写真6 進む、森林の宅地化
行きすぎた森林の宅地化は、土地の使いすぎによる森林破壊だ。土地利用の高密度化を実現できれば、森林を破壊しないですむ。もちろん過度な高密度化は、違った環境問題を引き起こす。この写真は、2004年11月16日のコラムでも使用している。

写真7 動物が高密度化した結果、出来上がった森林景観
左は大台ケ原。シカが樹皮を食べる食害によって、立木の大半が枯れてしまった。右は、かつて放牧が行われていた場所。ツツジ類やアセビばかりの植生となっている。これらの植物は、毒性があるために家畜が食べ残す。美しいが、オーバーユーズの結果として出来上がった景観である。
食料増産のための農地開発も、多くの場所では、森林破壊を伴う形で実現されてきた。人の過剰なリクリエーション利用もオーバーユーズであり、森林の不毛化を引き起こす(写真8)。「使いすぎ」を防止しながら、自然とうまく付き合っていくことが「共生」のベースであり、各所で、その方法論が検討されている。これらについては、次回、紹介する。

写真8 過剰なリクリエーション利用は森林の裸地化を引き起こす
高山帯(左)だけでなく里山でも、多くの人が立ち入れば同じようなことを引き起こす(右、根本淳氏の提供)。日本の里山なのにまるで砂漠化したようだ。過度な踏み荒らしは、土壌を硬くしてしまい、根の伸長を妨げたり、水の染み込みを悪化させたりする。この結果、植生の再生は困難となる
地球温暖化などの気候変動が、植生の変化や不毛化を引き起こすことは間違いないだろう。それに起因する森林の衰退や破壊は、さらに気候を変動させ、森林の不毛化を助長する。しかし、気候変動以外の要因、つまり「(いろいろな環境資源の)使いすぎ」でも森林は急速に破壊されている。それによって気候変動が起こると、森林がますます破壊されるという悪循環が考えられる。
環境資源の「使いすぎ」を防げれば、多くの地域では、森林は豊かな生態系を維持することができる。これにともない、公益機能も確保できる。「使いすぎ」を防ぐ方法としては、省エネ、省資源が筆頭に挙げられる。同時に、2月3日のコラムで山脇氏が紹介した「使い回し(=カスケード利用)」も組み入れたい(図3)。これならば、日常生活から始められることもありそうだ。

図3 バイオマスの「使いまわし(カスケード利用)」
2月3日の山脇氏のコラムより。最近は、木質バイオマス(材木など)を燃料として利用することへの期待が高まっている。木質バイオマスは、いきなり熱源として利用するのではなく、まずは固体として利用。老朽化したら徐々に形を小さくして使う「カスケード利用」が良い。例えば、建築材(柱→壁・床・天井→窓枠…)→家具材(机の天版→足…)→原料(紙、化学利用…)→熱源→灰やバイオガスを得た残りは肥料に。
5. なぜ森林が注目されるのか?
理由はいたって簡単である。陸上において最も複雑な生態系を有しているからだ。ライフスパン(寿命)が数分しかない微生物から、何千年も生きることのできる樹木までが同時に同所に混在するのは森林だけである。森林に棲む生物の身体の大きさは多様であり、空間を占有する程度も、占有している期間もそれぞれ異なる。しかも、その幅が、生物種間で非常に広い。
これらの生物種が、それぞれにかかわりあうと、膨大な組み合わせの化学反応や物理反応が起こり、その結果として多くの公益機能を多面的に発揮する。人工林の公益機能がさほど大きくない理由は、天然林よりも生物多様性が低いからである。このため、人工林の生物多様性を高める試みが各所でなされている。
近年、注目されている棚田など、伝統的な農法で維持されている農地も複雑な生態系を持っているように見える。しかし、生物多様性の点では、森林よりもずっと単調である。保全や再生を行う際、同じ労力や予算での見返りは、公益機能の面では、農地よりも森林の方で大きくなるものが多い。
もちろん、農地の生態系などを見捨ててもよいと言うことではない。しかし、土地を管理する上では、森林を農地にすることは、食糧増産の面以外では大半で損になるだろう。食糧よりも材木の方が資源として重要だから森林が注目されているわけではない理由は、ここにありそうだ。
図4 植生遷移と土地利用の関係(小林弘,1995 を改変) 拡大図
総合的な公益機能ということでは、極相林に近づくほど高いとされる。二酸化炭素の固定能力(ソース)は、齢の進んだ陽樹林や若い陰樹林で高く、二酸化炭素の保持力(ストック)は、陰樹林、特に極相林で高い。草原は分解力が大きい。これも大切な公益機能のひとつだ。生物多様性は、各段階の中間位置で高くなる。両端の遷移段階の生物種が混在するからだ。里山で多様性が高いのは、陽樹林、陰樹林などがセットとなっているためと考えれば良い。
アニメの監督として有名な宮崎駿氏が監督に成り立てのころ、なんと、農地と水資源問題に注目した実写のドキュメンタリー映画を制作している。当時は、植生遷移(図4)でいうところの草原の段階の自然に注目されておられようだ。
その後、草原や疎林、あるいは陽樹林がセットとなった里地や里山をテーマにした「となりのトトロ」を制作し、これを大ヒットさせた。さらには、陰樹林としての原生林や自然林の大切さを教えてくれる「もののけ姫」へと制作テーマの幅を拡大された。
我々はどの遷移段階にある自然と付き合っていくのか、どういう組み合わせで付き合っていくのか、といいうことを考える必要がある。どの遷移段階が最も適切あるいは大切かは、長い目で見極めていくことが大切であろう。
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私も地球温暖化の問題には、危惧しています。
何か個人的に参加出来るボランティア活動等があるようでしたら、教えてください。
中川 力 さま
筆者の中島です
ご意見感謝します。中川さんの思考は,私の思考と似ています。実は,ご質問の「個人的に参加出来るボランティア活動等」については,次回(実は,原稿が長くなってしまって,次々回)に掲載します。少しだけネタばらしをしますと,植樹,間伐,下刈りなどへのボランティア参加のような直接参加から,コンビニのレジの横に置いてある緑の募金へ釣り銭を入れるような間接参加もあり得ます。また,同じ価値なら森林資源やそれを原料とした製品を選択的に購入することも,その資金の一部は森林を維持・運営することに使われます。
森林が維持できない,破壊してしまう根本は,使いすぎを引き起こしている社会の方にもあるのです。しかも,安価に大量に使おうとするから,資金不足になって,安く生産する必要が応じて天然林を乱伐したりの乱暴な方法がとられてしまいます。あるいは,管理不足になってしまいます。
皆が「今の自分と未来のため」に公益機能をあげる,下げないような行動もできます。その第1歩は,森に行くことです。直接情報が必要でしたら,林野庁や市町村のHPに,ボランティアの情報もありますので,ご参照くだされば良いかと思います。
森林資源のカスケード利用について一言。
現在も、カスケード利用が全くないとは言いませんが、生産資源として見た場合、かなり難しいことになっているのではないかと思います。たとえば材木として使われた場合、防腐剤を注入します。ついでにそれぞれの住宅と言った形で各地に分散します。つまり資源がバラバラに不均質に存在するのです。家具にしてもベニヤやチップを固めたボードとして複合資材となっており、とても良好な状態の原料として考えられないのではないでしょうか。
最終的に燃やすのでしょうが、複合資材を燃やすと新たな大気汚染の発生源となりかねません。
こういったカスケード利用をきちんと行うと言うことになると、住宅の場合かなり寿命が短くなるのではないか?またムクの家具は非常に高価になるのではないか?そんな気がします。
結局のところ、生産の現場がかなり複雑なことをしているのが悪いと言うことになりません。
大量に生産し、大量に消費するため構築された現在の流通形態とは、かなりそぐわない部分が出来てくるのかと思います。
水崎さま
いつもご意見ありがとうございます。
そうですね,水崎さんのご指摘は,現状はその通りでしょうね。しかしながら,現状が「そのまま」最適な方法ではなく,何かの目的や目標があれば,方法論は変わるのだろうと思いますし,過去にも,いろいろなものが変わってきました。炭素の有効利用を考えた時,石油やバイオマスの組み合わせの中での最適化を目指す際,現状と変えるものって少なくないと思います。
合板の技術にしても,「廃棄」→「焼却」という「処分」の方法がダイオキシン問題と絡んだことで,接着剤も変わってきています。新しい技術も次々と開発されています。技術で解決できるとは思いませんが,都合によって技術(ハード)が変わったり,使い方(ソフト)も変化していっています。
もしも,現在のハードやソフトが,最適な方法だと言い切れるなら,環境問題も経済問題もおこっていないはずです。それらに過不足があるからこそ,様々な不都合が発生しているのだと考えられます。その中で,カスケード利用は,単に「寿命」だけのことでなく,最適化の中で期待されている方法論のひとつです。
おっしゃられる通り,現状での実現困難さに頭を悩ますことは少なくないですが,今日,明日のことと同時に,未来のことも考えてみるというのは,いかがですか?・・例えば,ダイオキシンにしても,誰も気がつかなっかったことから,今では大きな社会問題になり,社会全体で問題の改善に取り組んだという過去もあります。カスケード利用に関する取り組みの提案にしても,同じことに過ぎません。まあ,ダイオキシンは一例に出しただけなので,ここでは意味を持たないものですが。