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自然に触れることが、問題解決への近道

――都市で生活しながら、生物多様性をもっと身近な問題として感じるためには、どうしたらいいでしょうか。

矢原:  身近な生き物に、もっと興味を持っていただけたらなと思います。例えば、私の研究室がある箱崎キャンパス(福岡県福岡市)には、伊都キャンパスと違って保全ゾーンなどはありませんが、それでも200種くらいの植物があるんですよ。

私が植物の研究をしていて良かったなと思うのは、例えば箱崎キャンパスを歩いているときに、植物を見れば全部、分かることなんです。名前を知っていると、ようやくセンダンが咲き出したなとか、今年もマンテマが咲いたなとか……生活の中で、格段に潤いが増すんですね。人間でもそうですが、名前を知って親しくなった人と、知らない人とでは違うでしょう?


――例えば、知らない人が歩いていても、すれ違って終わりですが、知り合いだったら挨拶を交わしたり、話をしたりするということですね。

矢原:  生物多様性の問題がなかなか一般に広がらない理由というのは、自分の命とか健康とか、あるいは財産とかに被害が及んでこないからというのが大きいんです。でも、もっと身の回りの自然についての知識があれば、それだけ生活に潤いも出るし、環境の変化にも、もっと敏感になります。

里山で暮らしていたころは、皆、どんなに知らない人でも20種類から30種類く らいは植物を知っていたんです。山で仕事をする人になると100種や200種は当然のように知っていました。

結局、そうやって自然に少し意識を向けてみることが、地球温暖化の解決にも つながっていくのかなと思います。

「どんぐりの森をつくろう」というイベントでは、最近の子供がドングリ拾いなんて喜ぶのかと心配していましたが、杞憂でしたね。ドングリ以外にも虫を取ってきたり、色々なものを拾ってきて、ツタを振り回して喜んでいる子もいるし、木に登って落ちそうになったり……。

やっぱり人間というのは森で暮らす生き物なんだなという気がしますね。今は逆に、あまりにもそういう機会がなさすぎるのかなと。本当はもっと自然と触れ合う機会をもっと増やせればいいんでしょうけれど、今は皆、忙しいですからね。

九州大学 大学院 理学研究院 生態科学研究室 矢原 徹一 教授

九州大学 大学院 理学研究院 生態科学研究室 矢原 徹一 教授

――その中でも、何か工夫できるようなことはあるでしょうか。

矢原:  自然と接するといっても人によって接し方は色々あると思います。まずは趣味として取り入れるのがいいかもしれませんね。最近はデジカメも良くなっているので、写真を撮ってみるとか。釣りでもいいし、絵を描くのでもいいし。

まだ子供であれば、周囲の大人が、幼稚園や小学校のころから継続的に自然と接する機会を増やしていくことが大切ではないでしょうか。

結局、地球温暖化の問題にしても、生物多様性の問題にしても、根っこには右肩上がりで成長してきたころの暮らし方があります。現代の都市生活は便利で快適ですから、暑ければやはりクーラーをつけるし、そういう状況を変えるのはそれほど簡単なことではないですよね。

そういうなかで自然と接するプロセスやチャンスを増やすことが、何かのきっかけになるのではないかなと思うんですよ。

日本はこれから人口が減って、エネルギーは枯渇していきます。そのなかで、今の快適な生活をどこまで維持していけるかという新しいチャレンジをしなければならないわけです。

一方にはゲームやインターネットのような娯楽があってもいいんですが、現代ではあまりに自然とかかわるプロセスがなくなりすぎています。もう少し自然に触れ、自然の恵みを利用してもいいのではないでしょうか。春になったらツクシやタラの芽を摘んで食べるとか……。

自然と接する機会を増やすということが、遠回りなようでも、結局は解決への近道なんじゃないかなと思いますね。

現在も造成中の九州大学 伊都キャンパス

現在も造成中の九州大学 伊都キャンパス
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(前編はこちらから)


矢原 徹一(やはら・てつかず)氏

九州大学 大学院 理学研究院 生態科学研究室 教授。専門は生態学、進化生物学。
1954年生まれ。1977年、京都大学 理学部を卒業後、京都大学 大学院 理学研究科 植物学専攻に入学。1979年、理学修士取得。1984年、京都大学 理学博士。東京大学 理学部附属植物園に勤めた後、1991年、東京大学教養学部助教授。1994年、九州大学 理学部教授。2000年より現職。
1998年、松下幸之助花の万博記念奨励賞受賞。
日本生態学会会長(2008~2009年)、自然保護専門委員(1992年~)。日本進化学会、種生物学会で会長職を歴任。その他、日本植物分類学会 絶滅危惧植物問題専門委員会委員長、日本遺伝学会評議員、中央環境審議会 野生生物部会委員、環境省 絶滅のおそれのある野生生物の選定・評価検討会委員、日本学術振興会学術システム研究センター専門調査員など。
IUCN-SSC(Species Survival Committee) Japanese Plants Focal Point委員長(1997~)、DIVERSITAS(生物多様性国際研究プログラム)コアプロジェクト共同議長、GEO BON(Biodiversity Observation Network)サブグループ委員など、国際的にも活躍。

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