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温暖化も気候変動もつながっている

――今、IPCCのお話が出ましたが、地球温暖化や気候変動と、生物多様性の間にはやはり関係がありますか? 例えば今、IPCCの第4次報告書では、地球温暖化ガスの排出によって世界の平均気温が上昇すると予測されています。仮に平均気温が2℃上がったとすると、やはり生物多様性は失われると考えていいのでしょうか。

矢原 徹一 教授

九州大学 大学院 理学研究院 生態科学研究室 矢原 徹一 教授

矢原:  見方は大きく分けて2つあります。1つは、地球の歴史を遡れば、過去に何度も氷期などの変動を繰り返してきて、生物は生き延びてきたのだから、一部の種は滅びるかもしれないが、すべての種がズタズタになるわけではないだろうという見方です。

一方で、今や人間が生物の移動を妨げるような移動障壁を生み出しているのも事実です。例えば、ダムを造ったことで魚が遡上できなくなったりしていますね。それによってうまく移動できずに滅びる種もたくさん出てくるだろう、昔とは違うんだ、という見方がもう1つにはあります。

私自身としては、「まだよく分かっていない」と言うべきだろうと思いますね。こうしたことは、きちんと調べてみなければ分かりません。ただ、地域差はものすごくあるでしょう。特に欧州では相当数の種が滅びるのではないかと思っています。アルプスの氷河などが衰退していっているのは事実ですから、氷期のなごりのような場所に生き残っていた動植物はそれ以上、北に行くことができません。

もう1つ、深刻なのはサンゴ礁の白化です。「平均気温が2℃上昇する」といっても、予測しているのは地球全体の平均値ですから、例えば日本海の温度などは平均よりもはるかに上昇しているわけです。サンゴ礁に代表される海の変化というのはかなり劇的に起こると思いますね。そうすると漁場が変わりますから、人類への直接的な影響という意味では大きいかもしれません。でも、正直なところはやはり分からないですね(苦笑)。


――確かにIPCCの第4次報告書でも、気温上昇によってサンゴ礁の白化が「頻発する」というだけで、具体的な数値は示されていません。

矢原:  私も新キャンパスの保全とか、日本での種の絶滅リスクといった計算をしていますが、実際のところ本当に難しい問題なんですよ。要素は多いし不確定性は高いし、これで結論を出せというのは科学者にとってはほとんど拷問に近い(笑)。とはいえ、確かにとんでもない変化が起きているんだなということは私自身、分かってきました。

1992年にブラジルのリオデジャネイロで行われた地球環境サミットでは、「気候変動枠組条約」と「生物多様性条約」という国際的な枠組みが2本立てで作られましたよね。なぜ、この2つがセットだったのか……今ではよく分かります。

地球環境というのは、決して炭素だけで動いているわけではないんです。炭素を動かしているのは森林だし、窒素を動かしているのは干潟の生物だったりします。ですから、その地球全体の“生物のシステム”の劣化を食い止めなければ、温暖化問題の解決もないだろうというのが出発点なんですね。

結局、どの問題もつながっているんです。温暖化が与える影響として、漁場の変化やサンゴ礁の白化がありますが、一方で、それはそのまま生物多様性の問題です。また、生物多様性の問題であるサンゴ礁の死滅によって炭素のストックがなくなれば、それがまた温暖化のプロセスにも影響していきます。生物多様性の問題も、地球温暖化問題の1つなんだということを痛切に感じますね。

ただ、これまでは温暖化問題のほうが先に科学的な証拠が出てきて、実際に大規模なハリケーンなどが起こって、人々に危機感を与えています。その結果として、今は温暖化問題がよりクローズアップされているわけです。

しかしこれからは、もっと生物や人間の活動のプロセスを取り入れた計算をしなければ、より正確な予測はできない段階に入っています。

幸いにして、日本では「地球シミュレーター」などの優秀なコンピューターが出来ています。これによって、地球を10km²単位に分割して、温度などの変化を計算できるようになってきているんですよ。この10km²という範囲では、人間活動が数値の変化に大きく影響します。また、森林の樹木の性質が温度にどう影響するかとか、そういう生物多様性の問題まで考えなければならないわけです。

そのため、温暖化と生物多様性を結び付けることが、今、科学研究のフロンティアになってきています。

矢原 徹一 教授

九州大学 大学院 理学研究院 生態科学研究室 矢原 徹一 教授

(後編はこちら)


矢原 徹一(やはら・てつかず)氏

九州大学 大学院 理学研究院 生態科学研究室 教授。専門は生態学、進化生物学。
1954年生まれ。1977年、京都大学 理学部を卒業後、京都大学 大学院 理学研究科 植物学専攻に入学。1979年、理学修士取得。1984年、京都大学 理学博士。東京大学 理学部附属植物園に勤めた後、1991年、東京大学教養学部助教授。1994年、九州大学 理学部教授。2000年より現職。
1998年、松下幸之助花の万博記念奨励賞受賞。
日本生態学会会長(2008~2009年)、自然保護専門委員(1992年~)。日本進化学会、種生物学会で会長職を歴任。その他、日本植物分類学会 絶滅危惧植物問題専門委員会委員長、日本遺伝学会評議員、中央環境審議会 野生生物部会委員、環境省 絶滅のおそれのある野生生物の選定・評価検討会委員、日本学術振興会学術システム研究センター専門調査員など。
IUCN-SSC(Species Survival Committee) Japanese Plants Focal Point委員長(1997~)、DIVERSITAS(生物多様性国際研究プログラム)コアプロジェクト共同議長、GEO BON(Biodiversity Observation Network)サブグループ委員など、国際的にも活躍。

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