森と川とフルボ酸鉄の大切さに
世界が関心を持ち始めた
――松永先生の研究に対して、実際に山や海で生計を立てている人からアクセスがあったのは、畠山重篤さんが最初ですか? テレビに出演されている先生を見て、「明日会いに行きます」という電話をすぐにかけて出かけていったという話を聞きました。
松永: 私がNHKに出演したときですね。畠山さんは、(宮城県・気仙沼の)大川のダムの問題で必死だったんだと思います。河口に近い場所にダムを作られたら湾が“死んで”しまって、自分の子供に後を継がせても意味がなくなってしまう。
結局、意味のないダムは作らないってことになったんだけど、そのダムを建設したら水産にプラスになるって言った水産学者もいるんですよ。まあ、磯焼けはウニが昆布の芽を食べたからって言っている人たちですけど(苦笑)。
今はもう、河川を流れるフルボ酸鉄などが大切。そのためには森林を大事にしなくちゃいけない、っていうのは全国に広がっているでしょう。漁師を中心とした植林の輪が全国に広がっていますが、私が数十年間かけて今までやってきたことがやっと認められたと思っています。国民の血税で研究させてもらって、それの何十分の1は国民にお返しできたと思っています。
去年(2007年)、鈴鹿(三重県鈴鹿市)で開催された、森林組合のシンポジウムで、組合の人が講演でフルボ酸鉄の話をしていました。私のことは知らなかったんでしょうね。まあ、漁業者ばかりでなく森林組合の人にまで広がったというのは、苦労したかいがあったなという気がします。

四日市大学環境情報学部 松永勝彦教授
――これだけ森林資源を持っていて、沿岸の水産資源の恵みを受けてきた日本が、果たすべき役割が大きい気がします。先生の研究成果も、世界に発信していけるのではないでしょうか。
松永: JICA(国際協力機構)が東南アジア、南米、アフリカなどの森林専門家を年に12、3人ずつ招いていまして、毎年、森が海にどんな役割を果たしているのかっていう講義をしてくれと頼まれています。もう今年(2008年)で11年目になります。
英語で6時間もやらないといけないのでしんどいですが、彼らの1人でも2人でも、自国に帰って「森林にはこういう働きがある」ことを広め、彼らが植林をすることを期待して講義をしています。徐々に広がっていっていると感じています。
――洞爺湖サミットは終わってしまいましたが、松永先生の考え方を日本がどんどん世界中に発信していけば…と考えるのですが。そうすれば「日本って、すごいことをやっているんだな」と世界から評価されますよね。
松永: 米国で1回この話をしたことがあるんです。カキの学会でね。
彼らはオイスターの生態は知っているけど、どうやってその餌がつくられているのかは知らない。で、発表した時、「どんな木を植えたらいいか?」「オークでいいのか?」って聞かれました。オークというと、日本ではナラの木ですよね。だからイエスって答えましたが…。
――彼らも関心はあるんですね。
松永: ありますね。でも、彼らはカキや大型魚は食べても、沿岸の小さな魚はあまり食べないから、今はまだ沿岸を重視しているとは思えない。
一方でカキの餌がどうやってつくられるかとか、関心を持ち始めたことは、研究対象が沿岸にちかよってくると思います。だから今後の研究は日本の後追いをしてくるのではないでしょうか。
――どうもありがとうございました。
松永勝彦(まつなが・かつひこ)氏
三重県四日市生まれ。
四日市高校、立命館大学理工学部、大阪大学大学院工学研究科修了。
北海道大学助手、助教授を経て1986年教授。
2003年9月北大を辞職、10月から四日市大学特任教授。北大名誉教授(理学博士)。
森林が河川、海の生物に果たす役割に関する研究により、第1回環境水俣賞、日本海水学会賞、日本分析学会功労賞などを受賞。中学1年の国語の教科書に「魚を育てる森」を執筆。著書として、講談社のブルーバックスから出版した『森が消えれば海も死ぬ』が代表的な一般向け単行本である。
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