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川と湿地帯がフルボ酸鉄を作る
自然には無駄なものはない


――人間の手が入ってない山、あるいは植林どころか何もない伐採された山と、緑が豊かできちんと手入れされた山では、そこから流れ出るフルボ酸鉄の量は違うのでしょうか。

松永:  まあ10倍は違うでしょうね。でも、10倍違うから鉄イオンを10倍海(沿岸)にまで運んで、そして10倍効果があるかというと、それは単純に言い切れないでしょう。

実際には山から流れてくる河川の水だけではなく、湿地帯からもたくさんのフルボ酸鉄は出るんです。湿地帯に生えている葦(あし)が分解しますから、かなり効果があるんです。


――すると湿地帯がある所も、色々な生物が存在しているわけですね。

松永:  もちろんそうです。湿地もムダに存在しているわけではない。湿地はなぜ出来るかというと、森林があるからなんです。森林がなかったら水の供給がないから、湿地は出来ません。

自然というのは実によくできた存在なんですよ。ムダなものは何一つないと思いますね。にもかかわらず、例えば北海道では、湿地帯を埋め立てることをしたりする。理由は、湿地帯があっても人間には何の価値もない、必要ないということらしいのですが……。


――北海道といえば、かつての原生林の8割以上は切られて開拓されたそうです。かつては原生林だらけだったのが、今は2割もないとか。

松永:  元々、すべて原生林だったのに人間の都合で切り倒し、湿地帯を埋め立てて牧草地などにしてしまった。その結果、保水力がなくなり、大雨などで土砂災害などが起きると、今度はそれを防ぐためという理由でコンクリートだらけの土木工事を行う。

北海道に住む人口は日本全体の5%なのに、公共事業の予算は全体の10%も使ってるんですよ。私が思うに、その公共事業の予算は次の世代に本当に役立つことに使われているのかということです。マイナスになることやっているのなら、これは悲しいことですね。

四日市大学環境情報学部 松永勝彦教授

四日市大学環境情報学部 松永勝彦教授


――人間が上手に植林して手を入れ、河川に溶け込むフルボ酸鉄の量を増やすことで海が、生物がよみがえる。このことは実証されているのでしょうか。

松永:  すぐにそうした効果が現れるかというと、それは難しいでしょう。例えば、カキ養殖をされている気仙沼の畠山さんたちが取り組んでいる植林作業や私たちが行っている植林も15年になりますが、実際の効果として現れるのには植林の規模にもよりますが、半世紀くらいはかかるでしょう。

植林したときと、全く何も取り組まなかったときの差が、データとして検出できるには、それなりに時間がかかるでしょう。


(後編へ続く)


松永勝彦(まつなが・かつひこ)氏

三重県四日市生まれ。
四日市高校、立命館大学理工学部、大阪大学大学院工学研究科修了。
北海道大学助手、助教授を経て1986年教授。
2003年9月北大を辞職、10月から四日市大学特任教授。北大名誉教授(理学博士)。

森林が河川、海の生物に果たす役割に関する研究により、第1回環境水俣賞、日本海水学会賞、日本分析学会功労賞などを受賞。中学1年の国語の教科書に「魚を育てる森」を執筆。著書として、講談社のブルーバックスから出版した『森が消えれば海も死ぬ』が代表的な一般向け単行本である。

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