当たり前の生活を支えてくれる道路
──今国会のテーマの1つであった道路特定財源の問題が、一応の決着を見ました。そもそも道路特定財源制度が設けられた目的は、国民生活を豊かにする道路を作るためですが、この30年間で私たちの生活はどのくらい道路によって豊かになったのでしょうか?

東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 家田 仁教授
家田 仁 教授(以下、敬称略): 私はある種の豊かさを手に入れたと言っていいと思っています。我々は恵まれた状況にいると、それが当たり前だと思いがち。水にしても、食糧にしても、量の不足や質の低下が問題にやると、ようやくその大切さに気付きます。これだけ舗装道路が整備されると、そのありがたみをあまり感じられないのではないでしょうか。
私が子供のころは、表面がでこぼこの砂利道や土の道ばかりでしたから、自転車の練習には苦労したものです。それが今の子供たちは自転車どころか、一輪車の練習もしていますよね。これは道路が舗装されているからできることです。
また、かつては内陸に住む親戚の家を訪ねるときに、冷凍マグロのサクをお土産に持って行くと、ものすごく喜ばれましたが、今ではその町にも海鮮の名店があります。日本中どこでも刺身を食べられるようになったのは、やはり道路のおかげでしょう。現代の日本で当たり前になっている生活は、道路があって初めて成立するわけです。
ただし、それが人類にとって本当の豊かさかどうかは別の議論だと思います。例えば、物流が活発化したことで、二酸化炭素が多く排出されるようになったとか、物のありがたみが分かりづらくなったとか、そういう見方もありますね。
――生活の便益という意味では豊かになったけれど、別の側面では必ずしもそうはいえないと?
家田: いろいろな捉え方があるでしょうが、少なくとも文化的側面については反省すべきだろうと思います。
例えば、鉄道や船にちなんだ流行歌は多数存在しますが、道路が登場するヒット曲というと『中央フリーウェイ』くらいしか浮かばないのではないでしょう。道路は他の交通と違って時間的制約もなく、いつでも利用できる便利な存在です。しかし、通勤もデートも同じクルマでは日常の延長ですから、そこにドラマ性が見出せないのかもしれません。
また、地域の文化や個性が育ったかどうかも疑問ですね。日本中どこでも海鮮が楽しめるようになったために、旅行の楽しさが失われたと見ることもできます。昔は旅先でなければ味わえないものが、もっとたくさんありましたから。
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