命のふれあいに感動し、他者を敬う気持ちを
世界中の人が持つことが大切に
──地球温暖化は文明を破壊する力を持った事象であり、現在は危機的な状況であることがよく分かりました。人類がこの先、生き残るために必要なことは何でしょうか。最後にお聞かせください。
安田: そうですね。まずは、自然に祈ることで村上和雄先生の言われた「Something Great」を敬うこと。生きとし生けるものすべて、「地球にも意志がある」と私は思います。他者の命すべてに畏敬の念を持つことから、すべてが始まります。
NHKのあるディレクターにお聞きした話なんですが、東京には狸がいるそうです。で、これが時々人にいたずらをするんだそうです。どういういたずらかというと、ベンチに腰掛けている女性の足を狸がかじるらしい。ところが、かじられた女性はそのことに気がつかない。そういうと、皆さん驚かれますが、本当に気がつかないんですよ。カメラマンが撮影後に「今あなた、狸に足をかじられてましたよ」と言って映像を見せると、「全く気づいていなかった」と驚く。
東京に狸がいるのはとても素晴らしいことなんですが、人間の方は足をかじられても気づかないくらい“命の気配”を感じることができなくなっている。満員電車で毎日通勤・通学していたりすると、この感覚がますます麻痺していく。これではダメです。
命と命のふれあいに感動を感じて、それが生きていくってことじゃないですか。
例えば、鈴虫やコオロギの鳴き声に秋の訪れと喜びを感じるのが、日本の社会であり、持続的社会です。こういう気持ちは日本人なら本来、皆持っているものだと思います。
人と人の関係も同様です。他者を思いやる気持ち、敬う気持ちを忘れてはいけない。人は一人では生きていけませんから。集団でより良い社会を持続的に保とうとしたら、それは人と人の関係も全く同じです。
人類が開発した技術だけで、今問題になっている二酸化炭素排出量を削減しようとか、今後起こりうる大きな気候変動を乗り越えようとするのは、ある種、傲慢(ごうまん)な考え方ですよ。
その前に、地球を含めて、ありとあらゆるものに命を感じ、それを畏敬する──その心を世界中の人が持つことが大切だと思います。そうしなければ、現在、人類が直面している地球温暖化問題は絶対に解決できません。
――どうもありがとうございました。

国際日本文化研究センター教授 安田喜憲氏
安田 喜憲(やすだ・よしのり)氏
経歴
1972年 東北大学大学院理学研究科修士課程修了。
1974年 東北大学大学院理学研究科博士課程退学。
広島大学総合科学部助手をへて、理学博士。
1988年 国際日本文化研究センター助教授。
1994年 同センター教授。現在に至る。
1995年 麗澤大学客員教授。
1996年 中日文化賞受賞。フンボルト大学客員教授。
1997年 1999年 京都大学大学院理学研究科教授(併任)
1991年 1994年 文部科学省重点領域研究「文明と環境」、
1997年 2001年 文部科学省COE拠点形成プロジェクト「長江文明の探求」などのビッグプロジェクトのリーダーを務める。
2001年11月 地球科学や生態学などのノーベル賞に匹敵するクロホード賞の候補に日本人としてはじめてノミネートされ、ノーベル財団の招待によりスウェーデン王立科学アカデミーで講演。
2006年4月 スウェーデン王立科学アカデミー会員
2007年11月 紫綬褒章受章
専攻
1980年には、日本文化が森の文化であったことを初めて実証した。 古代文明の盛衰と環境変動とのかかわりを世界的スケールから研究し、自然科学と人文科学の学際的研究に取り組んでいる。
主な著書 特に記載がない限り、安田喜憲氏による単著
『世界史のなかの縄文文化』(雄山閣出版、1987年)
『森林の荒廃と文明の盛衰』(思索社、1988年)
『文明は緑を食べる』(読売新聞社、1989年)
『気候と文明の盛衰』(朝倉書店、1990年)
『人類破滅の選択』(学習研究社、1990年)
『大地母神の時代』(角川書店、1991年)
『日本文化の風土』(朝倉書店、1992年)
『気候が文明を変える』(岩波書店、1993年)
『蛇と十字架』(人文書院、1994年)
『森と文明』(鶴見精二と共訳著、晶文社、1994年)
『縄文文明の発見』(梅原猛と共編著、PHP、1995年)
『講座・文明と環境 全15巻』(梅原猛・伊東俊太郎と共編著、朝倉書店、1995-96年)
『森と文明の物語』(筑摩新書、1995年)
『森のこころと文明』(NHK出版、1996年)
『森の日本文化』(新思索社、1996年)
『縄文文明の環境』(吉川弘文館、1997年)
『森を守る文明、支配する文明』(PHP新書、1997年)
『図説 日本列島植生史』(三好教夫と共編著、朝倉書店、1998年)
『東西文明の風土』(朝倉書店、1999年)
『日本考古学』(編著、有斐閣、1999年)
『大河文明の誕生』(角川書店、2000年)
『環境と文明の世界史』(石弘之・湯浅赴男と共著、洋泉社新書、2001年)
『地球文明の寿命』(松井孝典と共著、PHP研究所、2001年)
『龍の文明・太陽の文明』(PHP新書、2001年)
『環境考古学のすすめ』(丸善ライブラリー、2001年)
『古代文明の興亡』(学研M文庫、2002年)
『日本よ、森の環境国家たれ』(中公叢書、2002年)
『敵を作る文明 和をなす文明』(川勝平太と共著、PHP研究所、2003年)
『古代日本のルーツ 長江文明の謎』(青春出版社、2003年)
『対論 文明のこころを問う』(小林道憲と共著、麗澤大学出版会、2003年)
『魔女の文明史』(編著、八坂書房、2004年)
『環境考古学ハンドブック』(編著、朝倉書店、2004年)
『文明の環境史観』(中公叢書、2004年)
『長江文明の探求』(梅原猛と共著、新思索社、2004年)
『気候変動の文明史』(NTT出版、2004年)
『巨大災害の時代を生き抜く』(編著、ウェッジ選書、2005年)
『龍の文明史』(編著、八坂書房、2006年)
『山岳信仰と日本人』(編著、NTT出版、2006年)
『文明の風土を問う』(共著、麗澤大学出版会、2006年)
『一神教の闇』(筑摩書房、2006年)
『5万年前』(監修、イーストプレス,2007年)
『環境考古学事始』(洋泉社、2007年)
その他、【英語の本】として
『Origins of Pottery and Agriculture』(ed. Roli Book, 2002)
『Monsoon and Civilization』(ed. Roli Book, 2004)
【中国語の本】として
『長江流域青銅器文化』(高崇文と共編著、科学出版社、2002年)
『神話・祭祀与長江文明』(編著、文物出版社、2002年)
『森林日本文化之母』(編著、上海科学技術出版社2002年)
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