年縞の発見で1年単位の気候変動と
歴史の相関を把握可能に
――「過去はどうだったのか」とおっしゃいましたが、どのようにして過去を知るのでしょう?
安田: 過去を調べる方法はいくつかあります。
その中で(高度経済成長の)当時、年代決定の方法は「放射性炭素同位体年代測定法」しかありませんでした。少し専門的な話で恐縮ですが、炭素(C)には自然界にもっとも多く存在する12C以外に、13Cが約1%強、14Cが微量に存在します。
このうち14Cは半減期が5715年の放射性同位体というものです。一言でいうと、放射能を持ったCというわけで、その放射能がどのくらい減ったのかから逆算して、考古学などの分野で過去の年代を測定するのに使うわけです。
ところがここで大きな問題が出てきます。この「放射性炭素同位体年代測定法」は、1000年前を調べるとすれば、プラスマイナス50年の誤差があるのです。
一方、人の歴史というのは1年単位で変わる。プラスマイナス50年、つまり100年間の誤差がある手法で人の歴史を“扱う”なんて、「そんなアバウトな話があるか!」と私は強調してきたのですが、当時はなかなか理解されませんでした。
この流れが変わってきたのは、1990年代に入ってからです。オゾンホールが発見され、1994年には記録的な冷害で日本は深刻な米不足におそわれました。気候の変化で生活が変わるということを世界中の人が実感し、歴史に影響があることにも気づいたのです。これで、世の中の雰囲気が変わりました。
そして21世紀になって、さらに私たちは新たな“道具”を手に入れました。「年縞(ねんこう)」の発見です。
これは、湖などの底の堆積物の層なんですが、「珪藻」(ケイソウ)という植物の状態によって堆積物の色が変化しているんです。珪藻が繁茂する春から夏の間は珪藻の白い色の層が出来て、珪藻が繁茂しない秋から冬の間は有機物や粘土の黒い色の層が出来ており、木の年輪のように、きっちり1年ごとに縞模様が出来るんです。
ボーリングして掘り出してみると、見事に縞模様が分かります。例えば日本では、福井県の水月湖の湖底で発見されています。

湖底をボーリングして採取された年縞のサンプル。縞模様の中に含まれる花粉や堆積物を観察して気候を調べる。
この年縞を数えていけば、1年単位で過去のことが分かるわけです。先ほどの放射性炭素同位体年代測定法と比べると格段の進歩で、しかも正確です。
この層の中に含まれている花粉の化石や珪藻の化石を分析することで過去の森の状態や気候の状態さらには海面や湖面の変動が年単位で分かります。さらに「タービダイト(撹乱層)」とよばれる地震や洪水で撹乱された層をしらべることで、地震や洪水などの災害の歴史や周期性も分かるのです。
つまり、年縞の数を数えることで何年前に起きた気候変動かを1年単位で正確に特定できるわけです。例えば、3200年前の気候変動を見るときに、何年かかって寒冷化・温暖化したのかが、正確に分かります。
――具体的に分析対象にするのは何ですか。
安田: 一番分かりやすいのは花粉の化石です。暖かいところと寒いところでは育つ植物の種が違いますから、花粉を見ることでその時の気候が分かります。年縞の層の中にある花粉を、顕微鏡で1個ずつ数えていきます。

国際日本文化研究センター教授
安田喜憲氏
ただ、植物の場合、育ってから花が咲くまではどうしても2年から3年はかかるので、気候変動に対しては“スローな反応”になります。もっと敏感に気候の変動を反映するのは昆虫の化石ですね。これは気候が変わると、すぐに移動します。
もう一つ、先ほども年代測定を紹介するときに触れて関係してくるのですが、原子の安定同位体の比率を調べることでも分かります。例えば、酸素(O)には16、17、18と3種類の安定同位体が自然界に存在します(編集部注:放射性同位体ではないので、放射能を出して崩壊していくことがない)。もっとも多いのが16Oで99.8%くらいで、あとは微量ですが、これらの比率を年縞から調べることで、気温変動が分かるのです。水温が高ければ、18Oの割合が高くなります。
先ほどの炭素(C)ですと、安定同位体は12Cと13Cの2種類です。14Cは放射性同位体ですので、年月を経るごとに崩壊していきます。そして、この12Cと13Cの比率から、気温や水温の様子が分かるのです。具体的には、温度が高ければ12Cの比率が高く、逆に低ければ13Cの比率が高くなることが分かっています。
このよう年縞を調べることで、ほぼ正確に過去の気候の変動の様子が分かってきました。
さらに、気候の変動と生態系の変動には若干の落差があります。例えば今の東京は、年平均気温が5度も上がれば亜熱帯の気候になります。亜熱帯といえば、ジャングルを思い浮かべますよね。しかし、ジャングルの植物が育つまでには、500年から800年もかかるのです。
先頃、ノーベル平和賞を受賞したIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)は、今世紀末に地球の平均気温は6.4度上昇するといっています。
しかし、その急速な気温の上昇に生態系が適応できず、安定した生態系が確立するまでの500年間は、生態系が不安定になって、干魃(かんばつ)や洪水などが頻繁に起こるはずです。
この連載のバックナンバー バックナンバー一覧へ 画面先頭に戻る
- アレックス・カー氏「田舎のリサイクル」が本物の自然を取り戻す 昔には戻れないから、精神的に「卒業」するべき (2008/10/31)
- 見えてきた!EV本格普及への道[PART1]神奈川県・松沢成文知事インタビュー (2008/10/21)
- 山形大学 大学院 城戸淳二教授(後編)エコな技術、有機ELに注目!来るべき有機ELテレビの時代 (2008/10/21)
- 山形大学 大学院 城戸淳二教授(前編)エコな技術、有機ELに注目!“照明”としての大いなる可能性 (2008/10/14)
- オーシーエス代表取締役 中道雅幸氏 環境時代が求めた発送方法 「エコメール便」とは? (2008/10/07)

