実学主義の伝統をくむ体験教育
――源流大学の取り組みについて紹介してください。
宮林 茂幸 教授(以下、敬称略): 源流大学は、東京農業大学が中心となって、山梨県小菅村と多摩川源流研究所のご協力をいただき、2006年10月18に開校しました。その後、小菅村にある白沢分校を校舎として整備し、森林調査、間伐作業体験など様々な体験授業を実施しています。

山梨県小菅村 白沢小学校
背景には、“源流”の知恵を“下流”で学び、“知識”を生きる“知恵”に変えて、新たな文化を創造していきたいという思いがあります。これは、東京農業大学初代学長・横井時敬の実学主義にも通じるところがあります。
彼は「専門家を作って土に返す」という言葉を残していますが、私は、今は専門家を消費者の中に返すのも農大の役割だと思っています。そのためにも、源流体験は貴重です。
例えば農学部の2年生を実習で源流大学に連れて行くと、草刈鎌を使ったことがない、そもそも草むしりをしたことがないという学生がほとんど。実習初日、手でやらせて、2日めに耕運機を使わせると「なんて便利なんだろう」「どうして先生これを昨日使わせてくれなかったんですか」って学生たちは言います。
今どき耕運機がない農家なんてないですからね、手で草むしりをするのは泥臭い、疲れる、無駄なことに見えるけれども、でも実際にやってみないと、“原点”がなくなる──これが実学です。原点がなくては、何かあった時に生き残る知恵がない。それを作るのが源流大学です。
今は農大の講座の1つですが、3年後には農大から離して、複数の大学や企業も参加するコンソーシアム化したいと考えています。市民や企業の、新たなビジネスチャンスにもつながるはずです。
──参加した学生達に変化はありますか?
宮林 茂幸 教授(以下、敬称略): 源流大学に参加することで、学生の意識も変わります。まず、人の話をよく聞くようになる。本質的な構造を無視して、最短距離で表面を理解しようとする傾向が今の若者にはありますが、源流大学に参加することで、「なぜそうなのか」を考える姿勢ができ、力が付く。
これが、机の前に座って黒板に書くのとは違う、地域の教育力です。農学の教育力ともいえるでしょう。昔の農家では、小さな子供にも家庭内でちゃんと役割を作って、働かせながら教育していました。これが教育の原点といえるのではないでしょうか。
だからといって短絡的に「昔は良かった」ではなく、原点を見て、いいものを取り入れることが大事です。今、私は、小菅村の全戸に光ケーブルを導入してもらえるように働きかけています。光ケーブルが入れば、大学の授業を源流域でも見られるようになって、ますます深い関係が作れます。
美しい森作りは、結局上流域と下流域の「かかわり」をきれいにすることなんです。赤とんぼやカエルがいる環境を作るだけが大事なんじゃない。本当に大切なのは、上流域と下流域のコミュニケーションを作り上げることです。
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