スタートラインである“画材”の変革
それがダンボール作品のきっかけだった
――さて日比野さんといえば、ダンボールを用いたアート作品の製作が有名ですよね。そもそもなぜダンボールを使おうと思ったのですか?
日比野: 例えば絵を描くのには、紙や絵の具といった、いわゆる“画材”を使うわけです。でもみんな同じ画材で描いても、最終的には違うそれぞれの絵を描かなくちゃいけない。例えば数学の問題を解く場合だったら、解き方はそれぞれ違っても最終的な答えはひとつしかないけど、アートの場合は「答えがない」というか、30人いたら30人それぞれの“らしさ”が出てこなくちゃいけない。でもスタートラインが同じ“画材”だと、同じものになってしまう可能性も高いですよね。それなのに別に「白い紙に描きなさい」なんて誰も言ってないのに、みんな疑問も持たずに同じ画材で描くわけですよ。そこで「じゃあちょっと白い紙じゃないもので描いてみようかな」と考えたのが最初のきっかけだった気がします。その頃ヨーロッパの伝統的なアートに対してのカウンターカルチャーとして、アメリカからポップアートが生まれたりしていた。時代的にその辺からの影響もあるでしょうね。伝統っていうものに対して、それを丸呑みせず、自分ならではのものが作りたいっていう。
――ダンボールって、誰にでも身近でとても扱いやすいですよね。だからこういうワークショップでの素材としても最適だと思います。
日比野: そうですよね。ダンボールはいわゆる梱包材だから、ボコボコになるのは役目として当たり前で。踏んづけようが、へこもうが、絵の具を垂らそうが構わない。あれが白い紙だったら、「絵の具が垂れちゃった!」とか「曲がっちゃった!」ってみんな神経質になっちゃうけど。ダンボールはそういう意味で日常では“一番身分の低い紙”とも言えますから(笑)。扱いやすいですよね。
――ただ、人によっては「“エコとアート”なんて言ってるけど、こんなにダンボールを使っていることこそ環境破壊じゃないか」という意見もあるかもしれませんが。
日比野: それを言えば“人間が地球に生きてるのが一番害だ”と言ってしまえるわけで。すべてのものはプラスの部分とマイナスの部分を持っているわけで、それは乗り越えていかないとね。怖がっていては何も生まれないですよ。
――個人的には捨てられる運命のダンボールが作品となって生まれ変わることは、とても素敵なことだと思います。
日比野: まあダンボールっていうのは元々再生紙で、あれを回収したら“古古紙”として、またダンボールになるから。普段の製作では、ある大きなダンボール屋さんに協力してもらい、ダンボールを提供してもらって、終わったダンボールはまたそこに持っていってリサイクルしてもらっています。市や行政主催でワークショップをする時も、その土地のダンボール専門業者に来てもらって、またリサイクルしていますよ。

アーティスト・日比野 克彦氏
日比野 克彦 (ひびの・かつひこ)氏
アーティスト。
1958年、岐阜県岐阜路生まれ。
東京芸術大学大学院修了。在学中にダンボール作品で注目を浴び、国内外で個展・グループ展を多数開催。また舞台美術やパブリックアートなど、多岐に渡る分野で活動し、アートシーンに様々な影響を与え続けている。近年は各地でその地域の特性を生かしたワークショップを多数開催しているほか、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」では「明後日新聞社文化事業部」を設立、同時に始まった「明後日朝顔プロジェクト」ともに現在も活動を続けている。
現在、神奈川県南足柄市にあるアサヒビール神奈川工場にて「アサヒ・エコアート・シリーズ2007 『ART VOYAGE』」(2007年12月25日(火)まで)を開催。また徳島県で開催される国民文化祭(2007年10月27日(土)~11月4日(日))へ向けて、上勝町傍示地区にて射手座造船所と名付けた船の作品を製作中。その他、金沢21世紀美術館にて日比野克彦アートプロジェクト「ホーム→アンド←アウェー」方式(2007年9月29日(土)~2008年3月20日(祝))、鹿児島県霧島アートの森にて日比野克彦展「日々の旅に出る。」(2007年10月12日(金)~12月2日(日))、熊本市現代美術館での個展「HIGO BY HIBINO」(2007年12月15日(土)~2008年4月6日(日))を開催する。
主な受賞歴に1982年第3回日本グラフィック展大賞、1983年第30回ADC賞最高賞、第1回JACA展グランプリ、1999年度毎日デザイン賞グランプリなど。
主な作品集・著作
『HIBINO』、『HIBINO2』、『海の向こうに何がある』、『100の指令』、『日常非常日(ピジョッピジョッピ)」(朝日出版社)、『えのほん』(三起商行/ミキハウス)、『KATSUHIKO HIBINO』(小学館)、『8万文字の絵 -表現することについて-」(PHP新書)、『HIBINO LINE』(玄光社)、『ひ ESSEY OF KATSUHIKO HIBINO』(淡交社)、『Yesterday Today Tomorrow』(リトルモア)、『HIBINO EXPO 2005 日比野克彦の一人万博 記録集』(水戸芸術館現代美術センター)、『FUNE』(西日本新聞社)など。
著者の関連リンク
日比野克彦 公式ホームページ
CAFE HIBINO NETWORK
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