このページの本文へ
ここから本文です

完熟堆肥が育てる
“力強い”農作物

――作られた完熟堆肥はその後、どうするのですか?

小泉:  この完熟堆肥を使い、一切、農薬を使わないで米作りをしました。そうすると、収穫率は従来のおよそ3倍近くに上がりました。農薬を使わなくても、虫食いでやられるより先に成長してしまうんですよ。冷害のある年だと、さらに大きな差が出るでしょうね。それに、この堆肥を使って作ったトマトは、“水に沈む”んですよ。これがどういう意味かというと、中まで栄養がギッシリ詰まっているということなんですね。最近では水にプカプカ浮いてしまうトマトも多いのですが、その理由を考えると、1つには化学肥料が普及したことが挙げられます。

右が完熟堆肥で育った稲。左の標準的な稲と比べ、大きさ、粒の数などの差は歴然。

右が完熟堆肥で育った稲。左の標準的な稲と比べ、大きさ、粒の数などの差は歴然。

確かに、今まで堆肥を作るのには時間や経験、勘などが必要で大変なものでした。戦後、大量消費の時代になると、とても生産が追いつかないので、最低限の無機質――つまりは窒素、リン酸、カリウムといった三大栄養素のミネラルしか含まない「化学肥料」が誕生したわけです。でも、それでは堆肥と違い微量なミネラルが含まれていませんので、土壌もやせてきてしまうし、おいしい農作物が収穫できない。

一方、この完熟堆肥には、窒素、リン酸、カリウム、マグネシウム、マンガン、銅、アルミニウム、ニッケル、カルシウム、鉄、亜鉛などが入っています。亜鉛やカルシウムは現代の日本人が不足しがちと言われているミネラル分ですよね。つまりこの完熟堆肥は、健康問題にも関わってくるというわけです。

そして当然、この堆肥は食糧問題にも大きな可能性を秘めています。つまり生ゴミの処理という環境問題の解決が、様々な問題解決につながるのです。

農学博士・小泉 武夫氏

農学博士・小泉 武夫氏

――なるほど。化学肥料の話もそうですが、技術や学問が進歩して生まれたものが必ずしもよいというわけではないのですね。微生物という、自然界に元々存在するものの力を、改めて感じます。

小泉:  20世紀は、学問や技術力は進歩したのかもしれませんが、自然が持つ力をないがしろにしてしまった。まさに「農学栄えて、農業滅ぶ……」というような状況でしたからね。農学者の私がいうのも何ですが(笑)。ですので、従来自然界にいる微生物の力を借りた「FT革命」なら、環境にも、人間にもやさしい問題解決が可能なんです。私は、21世紀は発酵の力を再評価する「FT革命」の世紀と思っていますよ。

後編に続く

小泉 武夫(こいずみ・たけお)

農学博士。発酵学、醸造学を専攻。1943年、福島県の酒造家に生まれる。現在、東京農業大学応用生物科学部教授、鹿児島大学客員教授、別府大学客員教授、広島大学医学部大学院非常勤講師のほか、農林水産政策研究所客員研究員(農水省)、全国地産地消推進協議会会長(農水省)、食糧自給率向上協議会会長(内閣官房長)、たて国立民族博物館共同研究員、福島県しゃくなげ大使や東都大学野球連盟理事を務めるなど、その活動は多岐にわたる。
主な受賞歴に「日本醸造協会伊藤保平賞」、「読売新聞社オピニオン賞」、「日本発明協会白井賞」、「三島海雲学術奨励賞」などがある。

また、作家、エッセイスト、冒険家、発明家の顔を持ち、著書は単著で95冊、共著で22冊に及ぶ。作家としてのペンネームに諸白醸児があり、また「味覚人飛行物体」を自称する。

主な著書
『FT革命』(東洋経済新報社)、『発酵は錬金術である』 (新潮選書)、 『食に知恵あり』『中国怪食紀行』『食あれば楽あり』(日本経済新聞社)、『発酵食品礼賛』(文芸春秋)などがある。

ここから下は、過去記事一覧などです。画面先頭に戻る バックナンバー一覧へ戻る ホームページへ戻る

記事検索 オプション

SPECIAL

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る