無理をしないことが
継続への最大のコツ
――最後に、たびたび話題に上った“ママチャリ”についてお伺いします。一般にはママチャリがもっとも身近な自転車であり、それしか乗ったことがない人の方が圧倒的に多いと思います。疋田さんはママチャリをどうご覧になっていますか。
疋田: 自転車そのものに対する注目度は間違いなく高まっていて、最近は地方自治体が主催するシンポジウムなどでの講演依頼が月に数本入ります。そういった場で、私は自転車通勤の楽しさや魅力を語るわけですが、好意的な意見が寄せられる反面、「そうは言っても、しょせんチャリンコでしょ」と思われる方も少なからずいらっしゃいます。
しかし、自転車本来のよさを知らないのは日本人だけと言っても過言ではありません。この原因ははっきりしていて、1970年と78年の道路交通法改正によって、世界で唯一日本だけが、自転車が歩道を走る国となったからです。ママチャリはそうした背景から生まれたもので、歩道を低速で安定して走れるように設計されていますから、スピードと長距離走行という視点は捨て去られてしまいました。
例えば、サドルは足が地面にベタッと付く高さが良いとされていますが、それはママチャリだけの話なんですよ。ロードバイクの場合はサドルの位置を高くして、ペダルが地面にもっとも近いときにしっかりと足が伸びるようにセッティングし、腰骨を立てた状態で猫背の姿勢を維持して乗ります。これによって、体重がサドルとハンドルに分散されて、効果的なペダリングが実現しますし、そういう乗り方なら疲れず、長時間乗っていてもお尻が痛くなるようなこともありません。ちなみに、停止時はサドルから腰を下ろします。

自転車ツーキニスト 疋田 智氏
※撮影用に何も被っていませんが、通勤時にはヘルメットを着用しています
――根本的に、ロードバイクのような本格的な自転車と、ママチャリとはまったく別のものだと考える方が良さそうですね。
疋田: ママチャリは安すぎるんです。最近は1万円以下のものも珍しくないでしょう。だから、大切にしないし、壊れたら簡単に買い換えてしまう。これだけ日本に自転車が普及していながら、正当に評価されていないのは残念でなりません。本来、自転車は軽車両ですから、クルマの大部分に取って代わるだけのキャパシティを持っているはずなんです。でも、すでに染み付いたママチャリの「遅い」「長距離は疲れる」「カッコよくない」といったイメージを打破するのはすごく難しくてね。
ただ、エコという側面が出てきたことで、少しずつ自転車に対するイメージが変わり始めているような印象を受けています。まだごく一部の意識の高い方々だけですが、私は、将来は自転車の時代だと信じています。自転車こそが21世紀のキーワードの1つで、それを紹介するために私は生まれてきたのだと。
だって、自転車は本当に楽しいですから。乗っている最中はライディングハイみたいな高揚感を味わえるし、健康に良いし、痩せられるし、満員電車に乗らないで済むし、街に新たな発見があるし、環境にも優しいし……、悪いことはひとつもない。もちろん通勤は毎日のことですから、無理は禁物です。風の強い日や雪の日は危ないですしね。でも、天気のよい日は本当に気持ちがいい。たっぷり汗をかいた後に飲むビールは美味しいですよ!
しかも、自転車を漕いでいると、小脳や延髄は活発に動いていますが、大脳は開放されて頭の中が交通整理できるので、自転車に乗るほうが1日の頭の回転がよくなります。生きている時間が濃くなるというのかな。だから、もっと多くの方に自転車に乗ってほしいし、好きになってほしい。心からそう思っています。
――ありがとうございました。

自転車ツーキニスト 疋田 智氏
(前編はこちらからどうぞ)
疋田 智(ひきた・さとし)氏
1966年、宮崎県生まれ。東京大学文学部卒業後、TBSテレビに入社。報道記者、「筑紫哲也のニュース23」のディレクターなどを経て、現在はTBSテレビ情報1部プロデューサーとして活躍中。10年超におよぶ自転車通勤の経験を生かして、国会の私的諮問機関「自転車活用推進研究会」理事など、公的な活動も精力的に行う。
著書に『自転車ツーキニスト』(光文社)、『銭湯の時間』(朝日出版社)、『自転車生活の愉しみ』『サドルの上で考えた』(東京書籍)、『快適自転車ライフ』(岩波書店)、『天下を獲り損ねた男たち(続・日本史の旅は自転車に限る!)』(枻出版)などがあるほか、雑誌『バイシクルクラブ』『自転車生活』(枻出版)などにてコラム連載中。
ウェブサイト:『自転車通勤で行こう!』、メルマガ『疋田智の「週間 自転車ツーキニスト」』でも自転車通勤に関する情報を発信している。
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