テレビの中の料理と
家庭料理は別の物
――昔はあったはずの、そういった“メリハリ”が失われてしまったのは、なぜでしょうか。
安井: まず、大量生産で物が安くなったということがあると思います。昔だったら滅多に食べられなかった焼き肉やハンバーグ、海老フライなどが、一年中、いつでも食べられるようになって、それこそコンビニに行けば、毎日でも買えてしまう。今、ハンバーグを特別な物と考える人は、あまりいないでしょうね。
もう1つは、今、皆さんが家庭で作っているお料理が、“テレビから習ったもの”だということではないでしょうか。
戦後、テレビで料理番組が始まった時には、当時の生活をワングレードアップさせるようなものや、皆が憧れるような欧米風の生活。それを紹介するというのがコンセプトだったと思うんですね。当然それは、実際の庶民の生活、私たちの祖母の時代の方たちが日々、家庭で作っていたものとは違うものです。
ところが、それを見た人は「あぁ、これが今どきの料理なんだ」とその生活に近付こうとしてしまう。だから自分の母親ではなく、テレビで流される料理を自分の家庭料理のスタイルとして取り入れていったんですね。
取り入れるといってもテレビに出演しているのはプロの料理家ですから、いくら家庭向けにアレンジしたレシピでも材料はたくさん必要だし、メモを見ながらでないと作ることができない。結局、皆、そういう料理に憧れはするけれど、実際には大変だから作らないんですね。食べたい時はレストランに行ったり、さもなければスーパーでレトルト食品を買って済ませたりして。

エッセイスト、料理研究家
安井 レイコ 氏
でも、昔ながらの家庭料理は、そういうものではないんです。例えば私の祖母の話ですが、お味噌汁のだしを取るために前の晩からお鍋に煮干しを入れたりはしていました。でも、そんな丁寧なものではなくて、翌朝、出てきたお椀の中を見てみたら、そのまま煮干しが入っていたりして(笑)。そんなことが当たり前でしたね。
私もお味噌汁を作る時は、お鍋に野菜とお水、煮干しを一緒に入れて火にかけるだけ。それで「だしが足りない」と言われたら、お椀によそった上からカツオブシをかけたって構わないし、味が薄ければお味噌を足せばいいですよね。家庭の食卓って、本来そういうアバウトなものだったはずなんです。
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