植物と建築の合体化は
古くから建築家たちのテーマ

『ニラハウス』1997年施工 設計:藤森照信+大嶋信道(大嶋アトリエ)
東京都町田市にある作家・赤瀬川原平氏の自宅。皮膚から産毛が生えるように、屋根面に点状にニラが植えてある。(撮影:藤森 照信)
──『ニラハウス』や『タンポポハウス』といった建築では生きた植物を建築に取り込んでいますね。この発想はどこから来ているのでしょう?
藤森: やはり「自然と建築との関係」を考えたいということが基本にあります。これらの建物でいろいろ実験をしている最中です。だけどこういう建物の場合、当然建てただけで放っておいてはダメになってしまう。植物の管理も大変なんです。例えば『ニラハウス』の場合、ニラを植え直したりはしなくてもいいんだけど、根詰まりを起こしてしまっている。あれも「何とかしなきゃなあ」と、最近思っているんだけど。
──『タンポポハウス』のタンポポの手入れも大変ですか?

建築家 藤森 照信氏
藤森: タンポポはね、屋根に植えた日本タンポポの種が飛んで庭中にタンポポが広がっています。近所中にも広がっているんですよ。それはいいことだと思いますけどね。ただ庭のタンポポを再び、屋根に上げてやらないといけない。こういう手間隙がかかることも、植物を建築に取り込む際の問題です。でも昔は庭を持っている人なんて、普通に植物の手入れをしていたでしょう。そういう感覚で取り組めばいいとは思います。ただ、建築に植物を取り入れる課題については、やればやるほど難しさは感じますね。
──どんな点が、難しいと思われるところですか?
藤森: 根本的には建築という人間が作った美と、植物が持つ自然の美って対立的なんです。離して別々に置いた状態ではそれぞれの美は素晴らしく見えるけど、一体化した途端に人間の目が拒絶反応を起こして、美とは感じられなくなる。例えれば臓器移植で拒絶反応が起こるような、あれに近いことが起きるんですよ。
それはなぜかというと、おそらく人間の頭の中で無意識のうちに、自然のものと人工物を分けて認識しているからだと思います。例えば、見たこともない小屋が視野に入った場合、人間は人工物だと認識するところから思考が始まる。そして人が作ったのなら仲間がいる、あるいは敵がいる――大昔からそういう識別をしてきて、その習慣が残っているからなんです。だから、建物の中に違和感なく美しく取り入れるのは本当に難しい。
──でもその合体化は先生のテーマでもあるんですよね?
藤森: そうです。「あー失敗した」なんて言いながら、このふたつを何とか完全に合体化させたいと飽かずに挑戦してますけどね。こうなると意地みたいなものです(笑)。でもこういうことは古くから建築家たちはみんな試みている。例えば20世紀の建築家としてはル・コルビュジエが「近代建築の5原則」の中で“屋上庭園”を2番目に挙げて重要視していたけど、それ以前から多くの建築家が建物に自然を取り込むことに興味を持っていたんです。

『タンポポハウス』1995年施工 設計:藤森照信+内田祥士(習作舎)
東京都国分寺市にある藤森氏の自邸。帯状にタンポポや芝など植物が植えてある。(撮影:藤森 照信)
(後編はこちらからどうぞ)
藤森 照信(ふじもり・てるのぶ)氏
建築家、建築史家。東京大学生産技術研究所教授。1946年、長野県茅野市に生まれる。1971年、東北大学工学部建築学科卒業。その後東京大学大学院工学系研究科にて近代建築、都市計画史を専攻し、1978年に博士課程修了。1980年、東京大学にて工学博士号取得(専攻:建築史・生産技術史)。1996年に東京大学国際産学協同センター教授、1998年に現在の東京大学生産技術研究所教授に就任。建築家としてのデビューは1991年の『神長官守矢史料館』。その後『タンポポハウス』(1995年)、『ニラハウス』(1997年、日本芸術大賞受賞)、『一本松ハウス』(1997年)、『秋野不矩美術館』(1998年)、『熊本県立農業大学校学生寮』(2000年、日本建築学会賞受賞)といった、自然素材を大胆に用いたユニークな建築を日本各地に築いた。また作家の赤瀬川原平氏らと1986年に結成した「路上観察学会」や、写真家の増田彰久氏とともに街に埋もれる西洋館の発掘・紹介など、建築に関するユニークな活動を幅広く手がけている。著書も『明治の東京計画』(岩波現代文庫)、『建築探偵の冒険・東京篇』(ちくま文庫)、『人類と建築の歴史』(ちくまプリマー新書)など多数。
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