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地球温暖化防止にはCO2を出さない努力が最重要

──井上先生は「CO2からの高分子合成」を発見されていますが、非常に反応性に乏しいCO2を材料にしようと考えた、その発想の原点は何だったのでしょう。

井上: 着想を得たのは、それ以前に続けていたCO2とはとくに関係のない反応の研究の中ですが、現在人工光合成の研究を進めている多くの科学者と同じく、大気中に大量に存在するCO2から何か有益なものが生み出せたらすばらしいだろうと思っていました。

東京理科大学 工学部 工業化学科 井上 祥平教授

東京理科大学 工学部 工業化学科
井上 祥平 教授

私が最初にCO2から高分子が合成できることを発見したのは1968年のことで、その翌年に論文を発表しました。当時はオイルショック以前ですから、水俣病などの公害問題は少しずつ表面化していましたが、資源の枯渇や広義での環境汚染といった問題はまだ誰も論じていませんでした。そんな時代でしたから、私自身の研究も環境問題、CO2排出削減といった視点は一切関係ありませんし、今でもCO2を使って高分子を合成することが、環境問題の解決になるとは思っていません。この点はまずご理解をいただきたい。

というのは、一旦排出したCO2を削減するのは容易なことではありません。科学の世界には「エントロピー」という系の乱雑さを表す考え方があるのですが、これは要するに、一旦散らばったものを元の整然とした状態に戻すには莫大なエネルギーがかかるということを意味します。例えば、キレイに片付けられたデスクの上を散らかすのは簡単でしょうが、それを元通りの状態に戻すには時間も手間もかかるでしょう。

だから、私は地球温暖化を防ごうと考えるならば、CO2を出さない努力をすることが一番重要だと考えています。一旦大気中に拡散したCO2を回収し、除去するのは不可能に近い。その意味では京都議定書は本質を付いていて、“削減”ではなくて“排出抑制”に重きを置いていますね。

病気と同じで、やはり予防にこそ力を注ぐべきなのです。地層貯留の研究もなされているようですが、それは対処方法に過ぎず、抜本的な解決策にはなりません。また、研究者のなかには地層貯留の安全性を主張する人もいますが、長期的視点に立ってどういった影響が出る可能性があるのかと考えると、早々に安全だと結論付けるのは危険だと思います。

実は私がCO2からの高分子合成を発見した後、その理論をベースに人工光合成を実現できないかと考えて、いろいろと調べたことがあったのですが、その当時からすでに大気中のCO2濃度が上昇していることを示すデータは専門書に掲載されていました。1970年ごろからすでにそこに注目していた人はいたのです。

それにも関わらず、大気中のCO2濃度は減るどころか、今なお増加の一途を辿っています。1970年の時点から排出削減に取り組んだところで、経済成長が何よりも優先されてきた時代ですから、大きな差はなかったかもしれませんが、そんな話の中で、ある人は「CO2に色があったらよかったのに」と言っていました。危機的な状況が目に見えて進行すれば、人間はもっと前向きに対処したかもしれませんよね。

後編はこちらからどうぞ)

井上 祥平(いのうえ・しょうへい)氏

1933年、京都市に生まれる。1962年、京都大学大学院博士課程修了。同年、京都大学工学部助手に就任。1962~63年、アメリカ・アイオワ州立大学博士研究員となる。1965年、東京大学工学部講師に就任、1978年には同教授となる。1994年、定年退官。同年から東京理科大学工学部教授となり、現在に至る。

専門は高分子化学、生体関連化学。1998年紫綬褒章。元日本化学会会長。現在日本化学会化学教育協議会議長、倫理委員会委員長。

著書に「はじめての化学」(化学同人)、「二酸化炭素」(東京化学同人)などの教科書・専門書のほか、子供向きの「かたいもの・やわらかいもの」(岩波書店)、訳書に「化学者の倫理」(化学同人)などがある。

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