国際連合大学 副学長 安井 至氏 インタビュー(後編)環境問題を解くカギは未来への“知的想像力”
●“世界初の量産ハイブリッド乗用車”として登場した「プリウス」は、今年で10周年を迎える。そのクリーンなイメージから海外セレブの間でも高い人気を博しているが、国際連合大学副学長の安井至氏もまた、熱心なプリウスユーザーのひとりである。安井氏によれば、プリウスは「知的な喜び」を味わえるクルマだという。
●クルマに求めることは人それぞれだろうが、安井氏のように未来の地球を想像して、環境に優しいクルマを選ぶのも考え方のひとつだ。自分自身がそのクルマを楽しむのと同時に、未来に対しても貢献しているという満足感は、従前のクルマの楽しみ方とは違った「喜び」をもたらすのではないだろうか。前編に引き続き、国際連合大学副学長、安井至氏のインタビューをお届けする。
(前編はこちらからどうぞ)
聞き手/土屋 泰一 文/林 愛子 写真/佐藤 久
駆け抜ける喜びを選ぶか? 知的な楽しさを選ぶか?
──安井先生のホームページ「市民のための環境学ガイド」にはクルマ関連のトピックが多数掲載されていますね。
安井氏(以下、敬称略): 私自身はプリウスに乗っていますが、環境について話し合う仲間のなかには「クルマはBMWじゃなきゃ嫌だ」というヤツが結構いるんです。理由は「駆け抜ける喜び」なのだとか(笑)。そんな話から始まって、仲間内では「『駆け抜ける喜び』とは一体何なんだろうか?」という議論に進展していきます。
そこで、私はこう主張します。「プリウスは実に奥行きが深くて、知的に楽しめるクルマなんだ」と。そして、「プリウスのよさがわからないなんて、『駆け抜ける喜び』という刹那的な観念に捉われている諸君のメンタリティにはフリーダムがないね」といって笑ったりしてね。こういった「楽しみ方の議論」をもっとみんながやるべきではないでしょうか。

国際連合大学 副学長 安井 至氏
──「メンタリティ」を変えていくことは、誰にでもできることでしょうか。
安井: できると思いますよ。今まで自己を主体としたエゴイズムの世界にいたところを、「for all」で考えるようにすればいいわけで、そうなれば「今、私がやっていることが100年後の人類に役立つかもしれない」という満足感が、わずかかもしれませんがプラスされるはずです。そのわずかな満足感が増えることを楽しめるかどうかでしょう。
たとえば、BMWには確かに「駆け抜ける喜び」があるのでしょうが、プリウスの「知的な喜び」と秤にかければ、大差ないと私は思っています。ただ、質がちょっと違う。プリウスには「100年後」という味方がついていますが、BMWにはありません。そういったことを足していくと、プリウスのほうが喜びが大きくなる構図もあり得ると思うんです。
ほんの少し、自分の想像力の枠を広げる努力をすれば、別の楽しみ方ができます。でも、それには実のところ、経済力も必要でね。お金は稼ぐけれど、「モア・バイ・モア」のループに陥らないような選択でなければなりません。
──アメリカ型の大量消費に慣らされてしまうと、そのループを避けるのは容易ではないでしょう。
安井: 日本はアメリカしか見ていませんからね(苦笑)。これは企業にも言えることです。たとえば、流通業界ではモノが売れなくなるとパッケージを変えるなど販売量を伸ばず努力をしますが、これこそが「モア・バイ・モア」の無限ループに入り込んだ状態で、自分で自分の首をわずかずつ絞めているんです。そこを「モア・バイ・レス」の発想に切り替えた瞬間、首根っこが絞まった状況からは脱せられるはずです。ただし、企業としては競争に負けるかもしれませんから、難しい選択でしょうね。
そこでオススメしたいのは、発想を「プレミアム」に切り替えることです。例えば、ブランド商品を考えてみましょうか。ルイ・ヴィトンのバッグは高額ですが、塩化ビニルは素材として優れていて、丈夫で壊れません。しかも、ルイ・ヴィトンなら簡単には捨てないはずです。もし捨てたとしても誰かが拾うかもしれないし、壊れていたら修理して使うかもしれない……。これが「モア・バイ・レス」なんです。
このようなプレミアムビジネスが成立する一方で、その対極には100円ショップ型のビジネスがあります。良し悪しではなく、どちらを選ぶかの問題に過ぎませんが、これから人口が減れば減るほど「より大量により安く」のビジネスは厳しさを増していくでしょう。かたやルイ・ヴィトンはいつ行っても混んでいて、「お取り寄せになります」といわれても、お客は怒るどころか、「希少性が高い」といって嬉々としているわけですよ。
もちろんすべての商売に当てはまる話ではありません。たとえば、食品の場合は難しいでしょう。昼食を買いに行って「お取り寄せ」といわれても、誰も待ちませんから。
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