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少ない量でも多くの喜びを得られる発想への転換

──自国以外のことに想像力が働かないように、一人ひとりもまた、地球温暖化を始めとする諸問題を他人事だと思っていると感じています。このままでは明日も変わらないし、10年後、50年後の状況も同じかもしれません。だとすれば、300年後の地球のために、我々はどうすべきだとお考えですか?

安井: 私は楽しみ方を変えることに尽きると思っています。大量のモノを持つことだとか、豪邸だとか、大きなクルマだとか、スケールを楽しむのではなく、これからは質で楽しもうと言いたい。金額が高いことが悪いといっているのではありません。「このクルマはこんなに小さいのに高額なんだぞ」と言って楽しめばいいんです。

国連大学のハンス・ファン・ヒンケル学長はこうした価値観を「モア・バイ・レス」と表現しています。要するに、少ない(レス)量で、多くの(モア)満足感や幸福感を得ようと。従前の、とにかく大量に持つことを喜ぶことは「モア・バイ・モア」で、これは収束せずに発散するだけの考え方です。その反対に少ないことを良しとする「レス・バイ・レス」では哲学的過ぎて、現実には受け入れ難い。学長のいう「モア・バイ・レス」は極めて言い得て妙だと思いました。究極的には「モア・ハピネス・バイ・レス」でしょうね。

日本には元来「もったいない」の発想がありました。もったいないとは、自分の置かれた立場から見て、このくらいが適正だろうという“身の丈に合った”考え方で、「モア・バイ・レス」とも相通ずるものがあります。しかし、グローバリゼーションの名の下に、世界で唯一アメリカだけが持つ「モア・バイ・モア」思想に染まってしまいました。

これは日本のみならず、世界的な傾向です。先日、とあるテレビ番組で各国の幸福感を比較していました。アメリカ人にほしいものは何かと尋ねると、とにかく「お金」と答えます。しかし、ノルウェー人は「ハピネス」と答えました。彼らは「このくらいのお金があれば幸せという量があって、すでにその必要量に達しているから、残業なんてバカなことはしない」のだそうです。また、アフリカのある国では、常に牛を放牧して移動しているので、「牛と最低限持ち歩けるものがあれば充分に幸せ」という意見でした。

ところが、最近はやっぱりグローバリゼーションで、ノルウェー人にも「フェラーリがほしい」と答える人も出てきました。何もフェラーリが悪いわけではありません。あのクルマは他のクルマに比べて、異常に高額ですから、価格という視点で見れば意外に「モア・バイ・レス」と言っていい。もちろん絶対的な“レス”ではありません。ただ、「レス・バイ・レス」が難しいとすれば、車体の価格や重量、環境負荷、価値といったものを総合的に考える必要があると思っています。

国際連合大学 副学長 安井 至氏

国際連合大学 副学長 安井 至氏

後編はこちらからどうぞ)

安井 至(やすい・いたる)氏

1945年生まれ、東京都出身。1973年東京大学大学院修了、同年5月、東京大学工学部助手となる。その後、東京大学工学部講師、米国レンセラー工科大学博士研究員を経て、1979年6月に東京大学生産技術研究所の助教授に就任する。1990年、同研究所教授就任。さらに、東京大学国際・産学共同研究センターのセンター長、全国産学連携センター協議会会長などを経て、1999年9月に東京大学生産技術研究所教授へ復帰。2003年12月より、国際連合大学副学長に就任する。現在は東京大学生産技術研究所・客員教授でもあるほか、(社)環境科学会副会長、環境省中央環境審議会政策部会臨時委員なども務めている。専門分野は無機材料化学、環境科学、産学共同研究。

著書に、「環境と健康」(丸善)、「リサイクル 回るカラクリ、止まる理由(ワケ)」(日本評論社)、「環境科学-人間と地球の調和をめざして」(東京化学同人)、「ごみの本」(ポプラ)など多数。現在、日経エコロジーにて「安井至のエコミシュラン」を連載中。

また、ウェブサイト「市民のための環境学ガイド」にて、さまざまな環境問題についての情報を発信している。

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