通勤者向けは公共交通の利便性を、ビジター向けは価格を重視
──通勤者向けパーク&ライドならではのポイントとはどのようなものでしょうか?
中村: 福岡と同じようなパターンで、新潟の北陸自動車道などにも、いくつか非常に評判の良いパーク&ライドがあります。私の経験上、通勤向けで重要なのは金額より、むしろ乗り換える電車やバスの早さと本数だと思います。
福岡の例でも、車ではかなり先のインターチェンジまで行く必要がありますが、高速バス停までならすぐ近くから乗車でき、なおかつ早くて、待ち時間も少ないわけです。さらに、夜遅くまで運行していれば通勤には最高の条件ですよね。
──では、もう一方のビジター向けのパーク&ライドは、どう違うのでしょう?
中村: 観光地などに多いビジター向けパーク&ライドの場合、利用料金が大きく効いてきます。実際に皆さんも経験されていると思いますが、例えば家族や友人など4人から5人程度で旅行に出かけた場合、全員がバス代や電車代を支払うとなると非常に高くつきます。
旅行の場合は、時間的な融通は結構利きやすいですから、多くの方が渋滞を気にせず車で出かけるわけです。高速道路の料金やガソリン代も1人、あるいは2人だと割に合わないでしょうが、このように大勢で割ればかなり安くなります。
最近はミニバンが増えていて、休日に“満車状態”で出かける車をよく見かけます。単純に費用だけで勝負した場合、当然ながらバスや電車は車に勝てない訳です。だから、JR各社などは、休日のディスカウントサービスに注力しているのだと思います。
ただし、これはあくまでビジネスの世界における勝負です。パーク&ライド、特にビジター向けの場合は少し事情が変わります。確かに、車の利用者側ではちょっとした渋滞でも気にしないという傾向がありますが、例えば国立公園の中などはそれなりに大きな問題で、なるべく車を使う場面を限定してもらいたい。これが本当のところでしょう。
ビジター向けパーク&ライドのデザインの仕方は色々あります。実際、私が箱根のパーク&ライドの社会実験に参加したときには、「都心から箱根までは車で来てもいいけど、箱根の中はダメ」「最初から電車で来てもらって、箱根の中は電気自動車を利用する」など様々な意見が挙がりました。
中でも比較的オーソドックスな手法が、「観光地の入り口までは車で来てもらい、観光地の中に入ったら環境にもやさしい公共交通を利用する」というものです。このパターンは、横浜をはじめ、都市型の観光地で多く採用されています。
──そうしたビジター向けパーク&ライドで懸念される点などはありますか?
中村: 私が一番心配しているのは、観光地内にやたらと駐車場を作ってしまい、結果として歩きづらい場所が多くなることです。駐車場を作れば、それだけ入ってくる車の台数も増えるわけで、駐車場に停められなかった車が路上駐車するのは目に見えています。
せっかく交通の便を良くするために作った道路が、路上駐車で埋め尽くされていたのでは意味がありません。ですので、車は観光地のもう少し手前で停めてもらい、あとは徒歩やバスを利用してもらうようにすべきでしょう。具体的な手法は、それこそ観光地の属性などにあわせる形で色々あると思いますね。

横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 中村文彦教授
ビジター向けのパーク&ライドで、もっとも頑張っているのは金沢でしょう。金沢には日本三名園のひとつ「兼六園」がありますが、県外の観光客による渋滞に頭を悩ませていました。そこで、インターチェンジを降りたところにシーズン中だけの臨時駐車場を用意し、総額1000円を支払うだけで車1台に乗車している全員分の一定期間乗り放題の専用バスチケットを配る、というサービスを始めたんです。同時に、シーズン中だけバス専用車線を増やして、バス運行を円滑化する工夫も盛り込まれました。
さらに金沢では、情報の見せ方に工夫を凝らしたのも大きなポイントです。当然ながら、観光地の場合は毎年行く人がいれば、現地を初めて訪れる人もいます。見逃せないのはこの点、つまり初めて訪れる人は、その観光地でもしパーク&ライドが行われていたとしても、そのサービス自体を知らないんです。
もちろん道路には「パーク&ライド実施中」という看板がありますが、これでは何のことか分らない人も多いでしょう。また、観光するための目的地までの所要時間についても、地元住民なら経験ですぐに判断できるでしょうが、初めて訪れる観光客には知る余地もありません。
そこで金沢では、1997年に小規模な実験をしました。インターチェンジを降りたところに大きな看板を設置し、市街地に車を乗り入れて兼六園の付近の駐車場へ停める場合の所要時間と、その場に車を停めてバスを使って兼六園へ行く場合の所要時間を併記したのです。これによって、パーク&ライドを利用するメリットを明確に表示しました。
このような情報の見せ方も、当時の金沢のパーク&ライドの利用増に貢献できたことが報告されています。つまり、ビジター向けのパーク&ライドは通勤者向けと違い、不慣れな人に対していかに分かりやすく情報を表示できるかが重要になるわけです。
(後編はこちらからどうぞ)
この連載のバックナンバー バックナンバー一覧へ 画面先頭に戻る
- アレックス・カー氏「田舎のリサイクル」が本物の自然を取り戻す 昔には戻れないから、精神的に「卒業」するべき (2008/10/31)
- 見えてきた!EV本格普及への道[PART1]神奈川県・松沢成文知事インタビュー (2008/10/21)
- 山形大学 大学院 城戸淳二教授(後編)エコな技術、有機ELに注目!来るべき有機ELテレビの時代 (2008/10/21)
- 山形大学 大学院 城戸淳二教授(前編)エコな技術、有機ELに注目!“照明”としての大いなる可能性 (2008/10/14)
- オーシーエス代表取締役 中道雅幸氏 環境時代が求めた発送方法 「エコメール便」とは? (2008/10/07)

