このページの本文へ
ここから本文です

利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド──これが最優先ですね(前編)

2007年3月2日

●車を使って最寄りの駅やバスターミナルまで行き、その近隣の駐車場に停めて鉄道やバスなどの公共交通へ乗り換える「パーク&ライド」──。一時期は、省エネルギー効果や環境への配慮などから注目を集め、多くの自治体などが実証実験に取り組んだにもかかわらず、残念ながら日本での成功事例は非常に少ない。
横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門の教授である中村文彦氏は、パーク&ライドに関する数々の社会実験や実証実験に参加してきた経歴を持つ。都市交通に関する専門家として、パーク&ライドの実態や抱えている課題、今後の可能性などについて聞いてみた。
●前編では、国内における都市交通事情をはじめ、パーク&ライドに必要なポイントについて、具体的な事例などを踏まえた話をお届けしよう。

後編はこちらからどうぞ)

聞き手/土屋 泰一、荒木 孝一(エースラッシュ)、林 愛子
文/荒木 孝一(エースラッシュ) 写真/佐藤 久

「パーク&ライド」のポイントは、目的や環境に応じたデザイン

──まずは、都市交通の研究に対する中村先生のスタンスをお聞かせください。

中村氏(以下、敬称略): 私は都市計画を背景として、都市の中の交通を研究しています。具体的なターゲットとしては、都市のバスが多いですね。バスというと過疎地を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、私の研究はあくまで都市の中における「バス輸送」がベースにあります。

一言でバスの研究といっても、道路の走り方、車両、補助金の政策など、テーマはかなり広範に及びます。その中で私が取り組んでいるのは、街づくりを中心とした研究です。街づくりの側面から、「バスというビジネスツールが街の中でいかに活かせるか」といった部分に焦点を置いています。

この「活かせる」という対象となるのは一般市民であり、彼らの生活の質の向上、健康な生活の維持、環境負荷低減への貢献などが、研究の最終目的といえるでしょう。

とはいえ、単純にバスの利用者以外は研究対象から除外する、という訳にはいきません。バス会社からは、自転車とバスがライバルだという意見も聞かれますが、実際には役割分担がきっとあるはずです。また、バス停から目的地までは必ず歩くので、歩行者空間の設計も大切な要素になってきます。

このように、街づくりを中心とした研究を進めるうちに、バスだけでなく様々な分野に研究の対象が拡大してしまった──というのが現状ですね。ちなみに、東急田園都市線の青葉台駅にあるバスターミナルは、私が博士号を取得している時にデザインをお手伝いしたものなんですよ(笑)。

──バスの利用度を下げる要因にもつながると思うのですが、車の使用頻度が増加している点についてはどのようにお考えでしょうか?

中村: 私は車に関して、「所有すること」と「使用すること」は別であると考えています。

所有したら使わなければもったいない、というのはあくまで“資金面での理屈”にすぎません。でも“街の理屈”で見れば、つまり街の中で車をどのように使用するかというのは、所有することとは全く別です。いかに車を上手く利用できるかが重要であり、そのことがイコール「何でも車で済ませる」ということにはならないでしょう。

もちろん、人々の中には「せっかく購入した以上は使わなければ…」「公共交通と比べて楽だから」といった意識はあります。でも裏を返すと、それは各個人が持つ意識だけではなく、代わりの移動手段のことをどれだけ考えているかという問題に結び付くのです。

例えばそうですね。昼間で普段は歩きやすい道であっても、「夜道が不安だから」という理由で、近い距離でも家族が車を使って送り迎えをする、という場合です。ここでのポイントは「夜道が不安なこと」が問題であり、街灯など歩行空間の設計を少し変えるだけで、車を使わなくても済む可能性がある訳です。

このように、人々が移動する際には必ずなにがしかの交通手段を選んでいます。言い換えれば、ほかの選択肢があまりに使いづらいので、仕方なく車を選んでいる場面(ケース)もあるわけです。そこで、残りの交通手段をいかに考えていくかという部分に大きな課題があり、同時に研究対象として面白いところでもあります。

──選択肢が狭まった結果として、多くの人々が車に頼っているということなんでしょうか。本来なら、交通手段の選択肢はもっとたくさん提供されるべき、ということでしょうか。

中村: 利用シーンや環境によっては確かにそうですね。都市の中では、車を使わなくてよい場面がもっとあるのではないかと思います。ここで問題となるのが、建築や土木など街づくりを行う側が、交通についてあまり考慮していないという点です。

例えば、都心に大きな商業ビルを建設する場合、かなりの割合で人々が車で買い物に来ることを前提にしてしまいます。もちろん、ビルを建設する際に「6割程度の人が車以外の交通手段を利用してもらいたい」といったデザインも可能です。でも、中に入るテナントは「車で来るお客様の方がたくさん買ってくれる」と信じているので、車での来客を優先したデザインになってしまうことが多いのです。

すると、どうなるか。街の中心なのに大きくて立派な駐車場の入口を作ったり、電車やバスのアクセスが不便だったり、駅やバス停からの道程が歩きにくかったり、といった環境が出来てしまう可能性があります。

これらはすべて、街づくりのデザインに起因する問題です。私たち研究側も、各業界に分かれているので、交通を研究している人は交通だけ、といった考えに陥りがちですが、こうした考えこそ、本来は避けるべきことなんです。

商業施設にどれくらいの人が車で来てほしいか、その根底にはビジネスの発想があります。しかし、街づくりという側面からとらえると、高齢者や免許のない人などを含め、車で来られない人々のことをどれだけ考えられるかが重要なのです。その場合、駐車場の広さやレイアウトだけでなく、公共交通や自転車でのアクセス、歩行空間といった部分まで十分に考慮すべきです。

ここから下は、過去記事一覧などです。画面先頭に戻る バックナンバー一覧へ戻る ホームページへ戻る

記事検索 オプション

SPECIAL

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る