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世界的に見れば、カブトムシのような大型の甲虫は、山奥深くにひっそりとまばらに生息しているのが普通で、日本のように人里近くに、密度濃く生息しているのはまれです。やはり日本の農業と雑木林の関係が、カブトムシやクワガタムシには好条件になっているのです。

僕の山での生活が軌道に乗るにつれて、ほかの昆虫も増えてきました。カミキリムシが増え始め(薪の中に産卵し、幼虫は木を食べて成長する)、花が増えるとコガネムシがやってきて花を食い荒らすのですが、増えすぎた分は捕殺すると、数が安定して、爆発的に増えることはなくなりました。小型の蛾や羽虫がどんどん増え、それに比例してジョロウグモがあちこちに巣を張るようになりました。

「ヤマガラの森」の森の中より、家の庭の方がずっとクモの巣が多いのも気づいたことです。森といっても、ほぼ隣接している場所なので、雨や日照、気温、土などの環境はほぼ同じです。しかし、森より家の庭の方がずっと植物や生き物の種類が多く、密度が高いのです。家の灯りがあるので、夜になると虫たちが窓に集まってきますが、これを狙ってクモも巣を作っているし、食糧事情がよいので、数が増えるのでしょう。

一方、隣接している古くからの雑木林(「ヤマガラの森」ではなく)の中を歩いてみても、クモの巣も少なく、昆虫の姿もあまり見ません。ひっそりと森が森としてあるだけ、という印象です。庭では、クモの巣を払った翌日には同じ場所に蜘蛛の巣がかかっているのに。

もちろん、目に見えない生き物や、夜しか活動しない生き物の生活はあるのでしょう。しかし、自然状態に近いはずの、手入れされていない森より、人間が暮らし、オチバンクをつくったり、植物を育てた方が、生き物の数が多いと実感するのも事実です。

何を持って生き物が豊かというかは、議論がいろいろあるところです。人の暮らしに近いところの方が豊かというより、増殖しているというべきなのかもしれません。しかしひとつはっきりしているのは、人の暮らしが生き物の生活環境をいつも圧迫し、阻害しているというわけではない、ということです。またカブトムシやクワガタムシ、カミキリムシ、コガネムシ、クモなどが、人間に都合がいい生き物だから増えているわけでもありません。いなくても生活には困らないけれど、いてくれるとちょっとほっとするから、特に駆逐したりもしない。人の生活が生き物の生活も支えている、そんな環境が日本の里山です。

「自然のままの自然」が唯一の自然というわけではありません。それもまた自然の形のひとつ。でも人の暮らしとともに活気を持つ自然も、自然のひとつと捉えてよいと思います。

渡辺 パコ

インターネット上に浮かぶ総合マガジン&メディア「知恵市場」主宰。グロービスマネジメントスクール講師(ロジカルコミュニケーション、クリティカルシンキングクラス担当)。有限会社水族館文庫代表。

主な活動領域は、環境戦略、ベンチャービジネスのスタートアップ、ナレッジマネジメント、コーポレイトコミュニケーションなど。

1960年東京生まれ。学習院大学哲学科卒。コピーライターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。88年に独立して100社以上にコーポレートコミュニケーションプランを提供する。98年からコンサルティング業務を開始。

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