第9回 ディーゼルエンジンの今後
CO2排出量削減はディーゼル車から始まった
ここ数回にわたって欧州車(ドイツ車)の環境に対する取り組みの一部をレポートしてきた。
競争激化する欧州では、ディーゼル車だけでは二酸化炭素(CO2)の排出量削減目標の達成が困難であることから、ガソリンエンジンの“逆襲現象”が起きている。燃費向上という意味では、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンの陰に隠れ、効果的な手段があまり講じられてこなかったのかもしれない。そこに日本からガソリンエンジンの燃費を飛躍的に向上させる「ハイブリッド」が登場したので、「ディーゼル対ハイブリッド」という議論が沸き起こったのである……。
と書くと、ハイブリッド以外のガソリンエンジンを担当するエンジニアから非難されそうだが、欧州では「燃費の良いディーゼル車とスピードが出せるガソリン車」という視点があったことは否定できないだろう。なぜなら、ここ数年、ガソリンエンジンの排気量は増加傾向にある。メルセデス、BMW、アウディといったドイツの高級車(プレミアムブランド)が、ガソリンエンジンのパワー競争を演じていたからだ。
さらに、ドイツの自動車メーカーはガソリンエンジンのみならず、ディーゼルエンジンでもパワー競争を行っていた。例えば、メルセデス、BMW、アウディはV型8気筒のディーゼルエンジンも開発し、ガソリンエンジンと同じような品揃えになっている。最近では、フォルクスワーゲン(以下、VWと略) がV型10気筒のディーゼルエンジンを、アウディがV型12気筒のディーゼルまで開発してしまった。「ディーゼルは走らない」という長い間定着した汚名を返上するのに必死だった訳だ。

メルセデス・ベンツ「C320CDI」
最近、ドイツの自動車工業会の会長は、多くのドイツのメーカーが欧州自動車工業会による「140g自主規制」(2008年から2012年までの間に乗用車の1km走行時の二酸化炭素排出量をメーカー平均で140g以内にするというもの。詳しくは第6回を参照)を達成できなかった責任をとらされる格好で更迭された。
ドイツ企業は先進的な技術を持っていても、環境問題では非難されることもある。あるフランスの自動車メーカーは「ドイツ人はディーゼルでもパワーウォーズが好きだ。スピード競争はF1で十分」と皮肉を言う。
しかし、こうした批判はあまり正しくはない。もしディーゼル車の普及が遅れていたら、CO2削減はもっと遠かったかもしれないのだ。
一昔前の欧州のディーゼル車は、やはり「うるさい・走らない」という汚名を着せられていた。しかし、1990年代にはコモンレール(高圧燃料噴射)とターボチャージャーによって、ディーゼルエンジンの性能が一気に革新する。粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)も少なくなり、クリーンでパワフルなディーゼルエンジンが実用化したのだ。
これはイタリアのフィアット社が持っていた「コモンレール」の特許をドイツのボッシュ社が購入して実現したもので、現代の先進的なディーゼルを発達させたという点において、ドイツ自動車産業の貢献はとても大きい。そして、このような新しいディーゼルを多くの人に理解させるには、スピード競争が分かりやすかった。その結果、欧州ではここ10年間にディーゼル車が50%を超える勢いで普及したのである。
しかし、ディーゼルエンジンがどんなに普及しても、それだけでは問題は解決しない。というのは、ガソリンエンジンに比べてディーゼルエンジンは製造にかかるコストが50%以上も高いのである。今後ますます強化される排出ガス規制は、ディーゼルエンジンに大量の白金使用を強いることになるし、埋蔵量が限られている白金を使う以上は、コストが下がる余地はない。
さらに新世代のディーゼルに不可欠な「ピエゾ・インジェクター」のコストも、通常のモノよりも驚くほど高い。CO2排出量削減では有利なディーゼルエンジンであるが、コストはさらに高くなることが懸念されている。
もう1つの問題は、そのものずばり、エネルギー問題だ。現在、ドイツではディーゼル車が急速に普及したため軽油が不足し、ロシアから輸入している。一方、余ったガソリンは海外に輸出しているので、その輸送の段階でCO2が排出されてしまう。VWのエンジニアは「ガソリンとディーゼルがほどよくバランスすることが必要」と述べている。このようにディーゼル車が普及した欧州では、次なる新しい課題に取り組む必要があるようだ。
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