人とクルマと地球の良い関係!
第1回 クルマ社会の“持続可能な”発展とは

ポルシェ911と筆者
今でも現役でレーシングカーでスピードを楽しむ私は、人並み以上にクルマが好きだ。自由に好きなところへ移動できるクルマは、まるで回遊魚のように動き回る私のライフスタイルには不可欠だからだ。
いや、それだけではないだろう。成熟した自動車産業はクルマの多様化を可能とし、ユーザー(消費者)の様々なニーズに応えられるようになって魅力を増している。例えば「プレミアムカー」と呼ばれる高級車はその国の文化や芸術性が織り込まれ、乗る人に豊かな感情を抱かせてくれる。ここまでくると単なる機械の集合体以上の存在だと気づくだろう。
ガソリン自動車が誕生してから120年という時が経ち、スピードというパラダイムの上に成り立ってきたクルマは、人々を場所や時間から解放し、自由に移動する権利を与え、異文化と遭遇する楽しさを提供している。
だが、最近はクルマの魅力だけではなく、様々な環境への影響も取り正されるようになってきた。いずれにしても環境問題は、クルマ好きにとっては背を向けることができない重要な課題なのである。クルマを被告席に座らせたくないと思っているのは私だけではないだろう。
趣味となってしまったレース活動だけでは飽きたらず、ジャーナリストとして世界中の道を走り回ることが日常の生活だが、最近は多くの時間を安全・環境問題に取り組んでいる。貪るように文献や資料を読み、今まで気にしなかったクルマの「負の問題」の実態に驚かされたのである。その時、ある物理学者の言葉を思い出した。「後世に良い世界を残そう!」と。
世界的な規模で活動する自動車メーカーは、「グローバル」という視点でクルマを開発している。生産性や環境負荷を考慮しながらも、それぞれの地域のマーケティングを入念に行い、今では世界でクルマは年間5000万台以上も生産されるようになってきた。
こうした経済活動が活発に行われた20世紀後半に、安全と環境問題が自動車産業に突きつけられた。このまま何の手も打たないと、環境やエネルギー問題で未来のクルマ社会は危ぶまれているのである。

愛車ホンダNSXと筆者
今回、新しく連載を始めるにあたって、「人とクルマと地球の良い関係」をテーマとした。最近、専門家の間でキーワードとなっている「サスティナビリティ:Sustainability(持続可能)」とは、分かりやすくいうと「人とクルマと地球の良い関係」に他ならない。
環境問題でよく使われる「エコ」という単語は、ある意味では抽象的だ。エコはエコロジー(生態学)とエコノミー(経済性)という2つの意味で使われるケースが多い。しかし、1970年代のオイルショックの時に生まれた「省エネ」という発想から出発した日本の「エコ」は、どちらかというと、我慢を強いるライフスタイルを提案してきた。
本来、省エネとエコは別個の次元でとらえるべきだし、もしエコロジーという言葉を正しく使うならば、「人とクルマと地球の良い関係」をしっかりと見つめるべきではないだろうか。
この連載で今後よく使う予定の「持続可能な発展(Sustainable Development)」という言葉は、1987年に国連ブルントラント委員長の報告書に書かれていたものだ。同報告書には、「将来の世代がニーズを充足する能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満足すること」と定義されていた。
「クルマ社会の持続可能」を考えるならば、経済的な発展と、地球規模の環境的な視点、さらには社会的な要素も統合した“グランドデザイン”を考えて行かなければならない。近視眼的な視点ではなく、大胆な視点で「人と地球環境の共生」が可能な秩序を作ることで、「良い世界を残す」ことが可能なのである。
さらに、21世紀が開けようとする直前に世界中の自動車メーカーが集まって「クルマ社会の持続可能」を真剣に討議する「WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)」が発足した。
WBCSDでは、グローバルに活躍する自動車メーカーやエネルギー企業が集まり、様々な研究を進めていて、例えば2030年の自動車の台数を32億台、地球の人口を90億人と予測している。現在の8億台のクルマと66億人の数から考えると、急激なクルマの増加が予測される。果たして「宇宙船地球号」は人類を養っていけるだろうかと、疑問に思うのは私だけではないだろう。
なお、連載を始めるにあたり「モビリティ」という言葉はクルマだけではなく、あらゆる輸送・移動手段を意味することにする。さらに「エコ」という言葉はなるべく使わずに、エネルギー問題、都市部の大気汚染、地球温暖化に分類して誤解のないように配慮したい。
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