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カフェブームの日本、
現地を知るプロたちを増やそう!

夕方、彼らは、もっと高いところで、この地域に最初に植えつけられた古い品種アラビカ・ティピカを守っている女性の畑に案内してくれた。

今でこそ大産地となった中南米にコーヒーの栽培をもたらしたのは、フランスの海軍士官、ガブリエル・マチュー・ド・クリュー。彼が嵐を切り抜けて、マルティニーク島に根づかせたのがティピカ種だ。収量はごく限られた背の高いティピカ種を、村を見下ろす高地に畑を持つマリアという女性が、守り続けているのだという。

泥道を登りながら、イリアーナが言うには、アメリカに出稼ぎにいった夫が、あちらで女性をつくって戻ってこないので、彼女は1人で7人の子供たちを育てているという。馬の手綱を手に、庭で待っていてくれたマリアは、メキシコ映画のヒロインにでも抜擢されそうな凛とした美しい女性だった。

コーヒー畑の奥には、トウモロコシ畑があり、その同じ畑に豆やカボチャを育てていた。混作は先住民の知恵で、インゲン豆はトウモロコシを支柱がわりに育ち、根粒菌がチッ素を固定するから連作障害を起さないらしい。

家の裏では黒い地豚や鶏を放し飼いにし、移動は馬。何百年も続いてきた、自給自足の暮らしだった。現金こそ足りないが、庭にいろんな花を植えて、暮らしを楽しんでいた。マリアの長男に案内されて見てみれば、アラビカ・ティピカは、背ばかり高く、笑ってしまうほどしか実をつけていない。それでも、この地に恵みをもたらしたありがたい木だからと、大切にしているのだという。

「イリアーナたちががんばって、コーヒー豆を直売できるようになって、いくらかでも暮らしが楽になったのよ」とマリアは微笑んだ。何の土産も持たずに出かけたのに、家族の写真を撮っただけで、喜んでくれた。

1人で7人の子供を育てるコーヒー農家、アンナ

1人で7人の子供を育てるコーヒー農家、アンナ

日本は、今、カフェブームである。チェーン店も増えたけど、小さなオリジナリティー溢れるカフェを始める若者も現れた。そうやって、コーヒーと毎日のように付き合っていく人たちが、1人でもたくさん、マリアやミゲールの暮らしを覗きに来てくれたら面白いのにな、と思う。

彼らが作るすばらしいアラビカ種のコーヒーは、2004年から、フェアトレードでイタリアへも輸出されるようになった。イタリアの生協やベネチアの老舗バールでも、お目にかかれるが、受け皿になったイタリアのNGOは、刑務所の囚人に焙煎をさせることでコストを削減し、彼らの手にも職というユニークな一石二鳥の方策を思いついた。

ところが、マンリッケとイリアーナが言うには、昨年、すでに需要と供給のバランスがとれなくなっていた。元気になってきた5つの村では生産量が増え、コンテナ10箱分を輸出できるようになったが、イタリアが買ってくれたのは、6コンテナだけだった。がんばって豆の質をあげながら、残りは“コヨーテ”に安く売らなければならなかったそうだ。

「誰か、日本人で、僕らのコーヒー豆に関心のある人はいないかな? たとえ1コンテナでも扱ってくれる人があれば、本当にありがたいんだけれど……」とマンリッケからのお願いである。ただ儲かればいいという大農園ではない。農薬だって使っていない。香りがいいだけでなく、高山の緑の森を育み、そこに住む共同体を守るコーヒー豆である。

この4月には、荷詰みの準備が整う。マンリッケは、今、おそらくグアテマラで最初の、本当においしいコーヒーを飲ませるカフェを開く準備を進めている。そしてイリアーナもまた、愛する故郷のため、コーヒー農家をもっと元気にするために、エコツアーを始めてみたいという。

どなたか、おいしいコーヒーの育つ高山の村を覗いてみよう、そしてフェアトレードで日本へ仕入れてみよう、という奇特な方はいないだろうか――と考えていたらちょうど、イタリアのスローフード基金から、4月中旬に、焙煎家などコーヒー関係者を中心にしたウェウェテナンゴ・コーヒー視察ツアーをやりたい、という案内が舞い込んできた。詳細はいずれスローフードジャパンのホームページに掲載される予定なので、お楽しみに。

アラビア・ティピカを教えてくれたアンナの長男

アラビア・ティピカを教えてくれたアンナの長男


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島村 菜津(しまむら・なつ)

ノンフィクション作家。

1963年福岡生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。著作に『フィレンツェ連続殺人』(新潮社)、『エクソシストと対話』(小学館・21世紀小学館ノンフィクション大賞優秀賞)。『イタリアの魔力』(角川書店)、『スローフードな人生』(新潮社)、『スローフードな日本』(新潮社)などがある。最新刊『バール、コーヒー、イタリア人~グローバル化もなんのその~』(光文社)が好評。

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