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第5回 食事の記憶、持ち主の記憶を宿す箸

2007年9月28日

デザイナー=益田 文和氏


“2本の棒”というシンプルな道具を
“誰でも使える箸”に変える魔法のデザイン

まず1本を、利き手の中指の先端関節と人さし指の付け根に渡してバランスさせた上で、親指と人さし指の先で挟んで支えるように持つ(鉛筆を持つ要領)。次にもう1本を薬指の先端関節と親指の付け根の内側に渡して親指の腹で押さえ、中指の先を軽く添える。この状態で、2本の箸(はし)はおよそ2cmの間隔を開けて平行になる。薬指で支えている方の箸は動かさずに、人さし指と中指、親指で持っている方の箸を動かして、2本の箸の先端を合わせるように調整する――。

これは箸の正しい持ち方だが、これを読んでいきなりその通りにやってみようと思っても、おそらくあまりに難解で、うまくいかないだろう。ましてや言われた通りに指と箸を動かして食材を挟み、口まで運ぶにはかなりの訓練が必要である。

古来、日本人は物心が付くか付かないかのうちから親や兄、姉、祖父母などに厳しく躾けられて、箸を器用に扱うことができるようになる。毎日、三度三度のことでもあり、一度慣れれば苦もなく使えるものだ。

箸は日本をはじめ中国、モンゴル、韓国、北朝鮮、ベトナム、台湾、シンガポールなどで日常的に使われているが、地域によって材質や形に特徴があるのが興味深い。

中国では木や象牙などで作った長い箸が使われ、一般に先が太い。最近は象牙に代わって象牙色のプラスチック製の物が多いようだ。朝鮮半島では器にも箸にも金属を用いる。かつては銀の箸であったと思われるが、現在はステンレス製で、板を打ち抜いて磨いた物や、丸や四角の断面形状を持った中空構造の物が多い。

日本の箸はほとんどが木製か竹製だ。漆をかけて仕上げた物が多く、先は細くとがっている。ほかの国では箸と共にさじなどを使うのに対して、日本では食事をするときに箸以外の道具を使わない。挟む、押える、つまむ、載せる、刺す、切る、ほぐす、混ぜる、分ける、寄せる、運ぶなどの作業を片手で持った一組の箸で済ませるのが普通だ。

改めて考えてみると、すごい道具である。

それだけに、子供のころから焼き魚の小骨をよけたり、崩れやすい豆腐をすくい上げたり、小さくて滑りやすい煮豆を挟むといった複雑な作業を難なくこなし、炊き立てのほかほかのご飯を永年にわたって口に運んできた箸が、加齢と共に思うように扱えなくなっていくことを認めるのは、事のほかつらいものになる。

高齢者用施設での食事時、ご飯やおかずをこぼすからといって、他人から柄の長いフィーディングスプーンでご飯を食べさせてもらうと、がっかりして急に元気を無くしてしまうお年寄りが少なくないという。

いつまでも自分で箸を持って食事をすることで、元気でいられるなら……と、開発したのが「楽々箸」だ。木の箸にシンプルなプラスチック製のクリップを付けただけの簡単な構造だが、握るだけで箸の先がぴたりと合うので細かい物でもちゃんとつかめる。

クリップを付けることで箸の自然な動きを再現できようにデザインされている「楽々箸」

クリップを付けることで箸の自然な動きを再現できようにデザインされている「楽々箸」

箸の木材を変え、より強度を高めたピンセットタイ

箸の木材を変え、より強度を高めたピンセットタイプ

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