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1996から1997に開催された第2回「IDRA」の受賞作品の中に、小さな木製のラジオがあった。作者であるインドネシアのSinggih Susilo Kartono(シンギー・S・カルトノ)によれば、それは港で廃棄されたパレットから作ったものだという。

貨物船の積み荷を運びやすいように、ひとまとめにくくり付けるため、木の板材を組んで作った台であるパレットは、通常、貨物の出荷国で作られる。輸出先で荷を下ろしても、まだ使えるようなら別の荷物を載せて、次の寄港地まで運ばれる。

やがて壊れて使えなくなるとその場で廃棄されるため、港には、偶然そこで使命を終えることになった、様々な国の色々な木で作られたパレットが放置されている。

1つ1つのパレットの素材に使われている木材は、それぞれが育った森の記憶やパレットとして様々な商品を積んで海を渡った記憶、幾多の寄港地での記憶を宿している。

その中から気に入った木を選び、小さなラジオを作る。on-offを兼ねた音量調節ダイヤルと、選局のためのダイヤル。たったそれだけのシンプルな構成。

しかも、ダイヤルには目盛りも何の表示もない。使い慣れたラジオの選局や音量は指先の感覚と耳で調整できるものだから、それ以外の余計な手掛がかりはいらない、というのがシンギーの考えだ。

シンギー・S・カルトノ氏と「木のラジオ」

シンギー・S・カルトノ氏と「木のラジオ」

彼は、そういう曖昧な部分を残した方が道具に対する愛着が生まれやすいという。塗装もしていない裸のラジオだから、着古した服地でカバーを作ってやってもよい。自分の好きなチャンネルが決まっていれば、自分で刻みを入れてしまうこともできる。そうすれば、もう、世界に1つだけのラジオ、自分だけのラジオだ。

古衣をまとった木のラジオはなかなかロマンチック。

古衣をまとった木のラジオはなかなかロマンチック。“記憶のデザイン”の意味するところを端的に表現している

シンギーのこのラジオは、インターネットをはじめ多くのメディアで紹介され、展示会にも出品された。そのたびにたくさんの共感を集めた。そのことが作者自身に改めて“木”という素材について考えるきっかけを与え、それが、自国の自然を守るための活動へとつながることになった。

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