第3回 mixi(ミクシィ)を住空間化してみたら?
時代遅れの独身寮を現代のニーズに読み変える
独身寮。
ずいぶん聞き慣れない言葉になってしまっているが、1980年代のバブル期には企業が社員獲得を目的として、ずいぶんたくさんの独身寮を建設した。しかし今となっては、独身寮を魅力的に感じる新入社員がどれだけいるだろうか。事実、それらのビルは有効に活用されないまま、企業にとっては不良資産としてポートフォリオの汚点のひとつになっている。果たしてそんなビルをどうすればいいのか。築年数も古くはないので壊すわけにはいかない、しかし独身寮独特の空間構成が、他の機能への転用を拒んでいる…。
おそらく、この独身寮もそんな物件だったに違いない。
昨年の夏、株式会社リビタの社長から相談があった。リビタは都市デザインシステムと東京電力の共同出資会社で、社長は僕と同い歳の友人。よく一緒に飲んでは「古い建物を使って、新しいことやりましょう」と話していた。ある日、その彼からふと電話があってこう誘われた。
「使われていない独身寮があるんだけど、これを使った新しいライフスタイル、一緒に考えませんか?」

かつての独身寮は、必ずしも“快適さ”や“生活の豊かさ”を中心に考えられたものではない。ただ効率的に過不足ない空間を住人に与えることが目的で、それはすべて管理する側の理論で設計されている。当然そこには均質で管理されているイメージがつきまとい、住む側はそれを本能的に嫌う。ましてやケータイの普及や雇用の流動化で、企業と個人のつながりは薄くなる一方。そんな時代では「寮などに押し込まれて管理されてはたまらない」と思う若者がほとんどだ。
このプロジェクトの課題は、独身寮の基本的な空間構造は変えずに(=大規模な改修・投資をすることなしに)、部分的な機能変換や運営プログラムの変革をすること。つまりかつての独身寮を現代のニーズに読み替えていくことだった。
そこでたどりついたのが、「ソーシャルアパートメント」というスタイル。
このスタイルはヨーロッパやアメリカに留学したり、長い旅行に行ったことがある人には受け入れやすいかもしれない。どういうものかというと、個室は最小限に、しかしラウンジなどのコミュニケーション空間は充実しているという形。ラウンジは住人たちみんなで使うリビングルームのようなもので、そこで同じ建物に住む人々と一緒に話したりテレビを見たりする。さまざまな国から留学生の集まるような、欧米に今まで多かったスタイルだ。
そのようにシェアが一般的な欧米の若者賃貸生活に対し、日本ではワンルームマンションが乱立したため、若者にその生活スタイルは定着しなかった。第一、不動産情報としては「風呂トイレ共同」などと書かれてしまうため、“貧乏物件”の代名詞になってしまったのだ。この“シェア”のスタイルが定着しなかったことで、日本の独身寮における住空間は“社会から隔絶された個室”となっていった。
しかし最近、“ゲストハウス”という、かつては外国からの留学生や労働者たちのみが住んでいたシェアスタイルの住居に、日本人が好んで住み始めているという話を聞いた。彼らがそこに住むモチベーションは「コミュニケーション」。生活空間のある部分を共有し、それによって深すぎない、しかし暖かな繋がりを構築したい…。そんな欲求を満たす住空間はゲストハウスしかなかったのだ。この感覚はまたたく間に若者を中心に広まったソーシャルネットワーキングのサイト、ミクシィ上でのコミュニケーション欲求に似ていて、そのリアルワールド版のように思えた。
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