対談・インタビュー

 
   
東芝 取締役 代表執行役社長
佐々木 則夫 氏
「地球内企業」として環境経営推進
成長分野に集中し収益拡大狙う

東芝 取締役 代表執行役社長
佐々木 則夫 氏


ささき のりお
1972年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、東芝入社。2001年原子力技師長、2003年原子力事業部長を務める。2005年執行役常務、2007年執行役専務、2008年取締役代表執行役副社長に就任。2009年6月より現職
 

「環境ビジョン2050」を策定し、積極的に環境経営を進める東芝。先ごろ発表した2010年度の経営方針では、成長事業である原子力事業をさらに拡大すると同時に、スマートグリッド(次世代送電網)、太陽光発電、リチウムイオン電池など環境分野の新たな成長事業に注力するとうたった。「『地球内企業』として『エコ・リーディングカンパニー』を目指す」と語る佐々木則夫社長に、「環境への貢献」と「収益の拡大」の両立を目指す環境経営の中身を聞いた。

 

Q:東芝グループは3月、他社に先駆けて一般白熱電球の製造を中止しました。どのような狙いがあるのでしょうか。

 

 白熱電球は東芝の創業事業の1つです。創業者の1人である藤岡市助が米国でエジソンから技術を得て日本で初めて電球を作って以来、120年間の歴史を誇ってきた事業です。
  今も年間2000万個ほど売れていますから、ビジネスとしては惜しい面もあります。でも、2000万個の製造を止めることで43万tの二酸化炭素(CO2)を減らせます。LED(発光ダイオード)電球など、より省エネの製品が登場した今、いち早く転換を進めることが環境経営を推進する我々の使命。苦渋の決断ですが、最初に電球を作った企業が最初に止めることに意味があると考えました。

 
Q:東芝はどのような方針で環境経営を推進していますか。
 

 東芝は企業の社会的責任(CSR)を経営の基盤に据えています。遵法精神を持ち、地域にも社会にも、地球にも貢献できる企業になりたい。そういう意味を込めて「地球内企業」という言葉を使い、CO2排出削減などの環境経営に積極的に取り組んでいます。
  具体的には「Green of Process」「Green of Product」「Green by Technology」の3本柱をすえています。一般白熱電球の製造中止は環境調和型商品を拡大する「Green of Product」に当たる取り組み。生産設備・プロセスの高効率化を推進する「Green of Process」、低炭素発電技術を浸透させる「Green by Technology」の取り組みも進めていき、「エコ・リーディングカンパニー」になることを目指します。

 
政府のロードマップは我々が実現してこそ完成する
 
Q:「東芝グループ環境ビジョン2050」を策定していますね。
 
東芝は3月17日、一般白熱電球の生産を止めた。佐々木社長は東芝ライテック鹿沼工場でのセレモニーに同社の恒川真一氏(当時の社長、現取締役)と出席。 東芝によるれい明期の白熱電球(左)と最後の白熱電球(中央)、LED電球
東芝は3月17日、一般白熱電球の生産を止めた。佐々木社長は東芝ライテック鹿沼工場でのセレモニーに同社の恒川真一氏(当時の社長、現取締役)と出席(左写真)。上写真は、東芝によるれい明期の白熱電球(左)と最後の白熱電球(中央)、LED電球
  2050年の“あるべき姿”を見すえたビジョンです。今のまま何の対策も講じなければ、2050年までにCO2排出量は現在の270億tから620億tに膨らみ、気温は4〜6℃上がってしまいます。影響を最小限に抑えるには、CO2濃度を450ppm、気温上昇を2℃ぐらいにとどめなくてはなりません。
  それに向けて我々は何をするべきか。CO2排出量を半減するため、環境効率を2倍に高めます。1.5倍に増える人口に対応するため、環境効率を1.5倍に高めます。そして3.4倍に拡大すると予測される1人当たりGDP(国内総生産)に対応するため、環境効率を3.4倍にします。この「2」「1.5」「3.4」を掛け合わせると、「10」になります。つまり世界全体の環境効率を10倍に高めた「ファクター10」を達成することが必要です。
  「環境ビジョン2050」には、東芝グループも2050年にファクター10を実現する目標を盛り込みました。この目標から“バックキャスティング”して、2010年にファクター2.0、2012年にファクター2.3、2025年にファクター5を実現する目標です。2009年度も、目標を上回る1.97を達成するなど、順調に対策が進んでいます。
  ビジョンを推進する第一義的な目的は、地球環境の改善に貢献すること。同時に、収益拡大にもつなげます。先ごろの「2010年度経営方針説明会」では、当社のリソースを集中させる成長事業として原子力事業の拡大を、いっそうの展開を進める新規領域として、スマートグリッド(次世代送電網)を中心にしたスマートコミュニティソリューションや太陽光発電システム、二次電池事業などへの注力を挙げました。環境改善に貢献する事業の拡大を経営戦略に組み込むことで、ビジネスの実りを大きくすることが重要だと思います。
 
Q:環境省や経済産業省は温暖化対策のロードマップやエネルギー基本計画などを策定しています。こうした動きは追い風になりますか。
 
 もちろん追い風になります。しかし、基本計画やロードマップを実現するのは我々です。ロードマップがあるから、それに合わせてビジネスをするのではありません。環境経営を志向し、低炭素型の製品・サービスを提供するから、ロードマップが完成するのです。場合によっては、我々の技術と製品は、ロードマップの上を行くかもしれません。互いに刺激し合い、フィードバックし合うためにも、我々は新しい技術や製品、システムを開発し、提供することが必要です。
 
Q:環境改善への貢献と収益を両立させる事業の1つ、「スマートコミュニティソリューション」についてはどのような方針で事業を展開しますか。
 
 東芝は送電・変電・配電技術、計測技術のほか、太陽光発電、風力発電、二次電池などの技術を持っています。また、これらを総合的に仕上げるシステムインテグレーターの機能も果たせます。国や地域のニーズに合わせ、カスタマイズしたソリューションが提供できます。
  東芝は、インドがデリーとムンバイ間で計画している「産業大動脈構想」のうち、スマートグリッドを活用した工業団地再開発プロジェクトに参画しています。現地では水や電気が足りない状態が続いており、地盤沈下の問題にも対処しなければならず、また、自家発電で高い電気を確保している。このような状態に、基本のインフラ整備から取り組むプロジェクトも手がけます。
  一方、米ニューメキシコ州でのスマートグリッド実証プロジェクトでは、太陽光発電を取り入れながら、末端の配電まで含めた最先端のエネルギー管理システムを構築・実証しようとしています。地域の実情と要望に応じたソリューションを提供し、競争力の源泉にしたいと思います。
 
Q:4月に住宅用太陽光発電事業に参入した背景を教えてください。
 
 同じ太陽光発電でも、電力・産業用は規模と効率を追求する必要があり、住宅用はアフターサービスも含めてきめ細かく対応する必要があります。ビジネスの中身が全く異なるのです。東芝は従来から電力会社に対しては原子力、火力などの発電施設を提供し、家庭向けには冷蔵庫、洗濯機などの家電製品を販売してきました。事業形態として、どちらにも対応できる強みがあります。
  住宅用太陽光発電に関しては、家電製品で築いてきた代理店網などを活用しながら販売・サービスを展開できます。成熟し、成長が伸び悩む家庭用市場にプラスとなる新たなビジネスになり得ると期待しています。
 

●2009年度には目標を上回る「ファクター1.97」達成

●2009年度には目標を上回る「ファクター1.97」達成
 
ビル・ゲイツ米会社へ東芝の小型炉技術を適用
 
Q:原子力事業はどのように位置付けていますか。
 
 東芝にとってNAND型フラッシュメモリーと双へきを成す成長事業ととらえています。
  原子力発電は直接的にCO2を減らせる有効な手段です。2006年に買収した米原発大手のウエスチングハウスと合わせ、東芝は過去に114基の原発を建設していますが、現在も運転している112基で毎年7億tのCO2排出を抑制しています。改良型沸騰水型原子炉(ABWR)1基で年間905万tのCO2を削減できる。この技術を活用しない手はありません。
 
Q:2015年までに世界で39基の原発受注を目指していますね。
中国浙江省の三門原子力発電所1号機の、原子炉格納容器ボトムヘッドすえ付けの様子
(写真提供/米ウエスチングハウス)
 
 本当はもっと受注ペースを上げたいのですが、各国の政策も関係するので難しいですね。海外での原発受注を推進する新会社を設立する話もあります。官民が力を合わせた対応が進むことが重要です。
 
Q:ビル・ゲイツ氏が出資する米原子力メーカー、テラパワーとの次世代原子炉の共同開発の構想は。
 
  原発は現在の改良型軽水炉に続いて高速増殖炉の導入が進み、将来的には核融合炉が普及する見通しがあります。ただ、世界中でこの技術を活用できるわけではありません。高山に囲まれ、送電線もないような地域には小型炉が必要です。
  テラパワーが研究開発を進める進行波炉(TWR)は、小型炉の中でも核不拡散、安全などの問題に対処しやすい有望な技術。ただ、実現には技術的な課題がいくつかあります。東芝は独自に小型高速炉(4S)の実用化を目指しています。その技術を活用すれば8割の課題を解決できます。残りの2割も2社共同で取り組めば実現が近づくでしょう。
  原発に限らず、太陽光、風力、火力発電とCCS(CO2回収・貯留)の組み合わせについても、その土地に合う技術を適用して、発電の低炭素化を進めたい。東芝にはそれだけの技術があります。
 
(聞き手/斎藤正一、馬場未希 構成・文/小林佳代 写真/加藤康)