ECO JAPANリポート

2011年10月24日

すべての意思決定にCSRの視点を取り入れる

企業価値を高めるサステナビリティ戦略【4】

海野みづえ(創コンサルティング社長)

このシリーズでは、CSRを戦略的に本業に生かすための方法について考えてきた。新市場の開拓や、信頼度の高い情報発信に活用している海外の企業事例を見てきた。最終回は、ステークホルダーエンゲージメントの社内での活用を取り上げる。

 ステークホルダー(利害関係者)と積極的に対話し、その要請や期待を経営に反映させるステークホルダーエンゲージメントの重要性は、CSRの国際規格、ISO26000でも強調されている。経営者が率先して意思決定や事業のあらゆる活動のプロセスにステークホルダーの声を反映させる「新しい経営」が求められる。

 ステークホルダーエンゲージメントに前向きに取り組み、社会から高い評判を得ている企業は、人材の採用・育成面においても評価が高いといわれる。今後、世界中で人材を採用、育成することは日本企業の課題である。ステークホルダー志向を組み込むことは、人材戦略のうえでもプラスに働くだろう。

 日本企業にとって、多様なステークホルダーと向き合うことは、モノカルチャーな風土にイノベーションをもたらす効果も大きい。アジアや新興国といった多様な地域への事業展開が急速に広がっている。現地の人材や風土を経営に取り込むことは必須であり、新たな市場展開や技術・製品開発をもたらす土壌を築く可能性が高まる。

 今回は、上記の先進事例としてネスレとマイクロソフトを紹介する。

ネスレ:経営会議にサステナビリティ専門家を積極登用

 スイスに本社をおく世界最大の食品会社であるネスレは、(1)コンプライアンスをベースとして(2)サステナビリティの概念を抱合させ、さらに(3)「共通価値の創造(CSV: Creating Shared Value)」へと発展させたCSR体系を構築している。これは、社会と企業の双方にとって長期的に価値あるものを創造をしていくことが会社の使命と考える、同社のベースを示すものである。

「共通価値の創造」を事業戦略の柱に

 食品会社として、自然環境の保全と様々な国の人々との協力なしには事業も存続し得ないという意識を強くもっており、事業戦略の柱にサステナビリティを組み入れている。それが 「共通価値の創造」であり、CSRの体系ではそのトップに位置づけられる。具体的には、(1)栄養、(2)水資源、(3)農業・地域開発――の3分野を掲げている。

・ネスレの中核となる事業戦略ならびに事業運営を推進することで、株主にとっての価値を創造する
・楽しくかつ健康とウェルビーイングに資するような栄養価値の高い製品を提供することで、消費者ならびに一般の人々に貢献する
・ネスレのバリューチェーンにかかわる人々や地域、すなわち、私たちに原料を提供する農家、工場が立地する地域、私たちと協働するサプライヤーや取引先の人たちと共に、社会経済を発展させていく

 CSRが戦略的に事業計画や運営に組み込まれているのでCSR専門の社内組織はなく、それぞれの部門がサステナビリティの観点を取り入れそれを実践している。特にトップの組織としては、スイス本社でCEOを議長とし執行役員13人で構成するCSV調整委員会を設置している。3カ月に1回委員会を開催しており、「共通価値の創造」の戦略的実施について、グループレベルで監督する役割を担っている。

 また2009年4月には、サステナビリティ分野の専門家で組織する「CSV諮問委員会」も新設した。同委員会のメンバーは、ネスレの会長とCEOのアドバイザリーとして任命されている。彼らの役割は、「共通価値の創造」の概念をさらに発展させ、ネスレのバリューチェーンを分析して活動を提案し、年次「共通価値の創造」フォーラムの進行を支援し、新設された「共通価値の創造ネスレ大賞」の受賞者を選定する。ステークホルダーに向いている姿勢を対外的に示すだけでなく、今後の経営を強化する目的が強く感じられる。

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