ニッポンの「食」

2010年8月27日

50万戸の農家を再生させた直売所

 次々に引きおこされる食品の偽装事件。その信頼回復もままならぬというのに、こんどは殺虫剤入りの輸入冷凍餃子事件が発覚してしまった。日本の食卓を支えている基盤のもろさと危うさが内と外から露わになってしまった。なぜ日本の食はこれほどまでに外部に、そして海外に依存しなければならないのか。改めて食料自給率39%の貧しい食の現在を思い知らされることになった。

 食に対する不信と不安が日々に高まる中で、それを解消すべく、人々が集まってくる場所がある。この十数年、日本の農山漁村に次々に開設された農産物直売所。ここはいま、日本でもっとも良質で信頼に足る食に出会える場所である。そこに行けば朝どりの新鮮野菜はもちろん、農家の主婦たちが丹精こめた手作り惣菜や加工品を手にすることができる、いわば畑に最も近い食料品店、農家が共同して営む八百屋さんでもある。そして何よりも汗して働く農家の明るい笑顔に出会えるところである。

農産物直売所に行けばおいしさ、新鮮さだけではなく笑顔に出会える、会話がはずむ(宮崎県高千穂町)

 現在、農産物直売所は全国に1万カ所以上あるといわれている。そしてその歴史は新しく、その大半はバブル経済崩壊後の1990年代になってから開設されたものばかりである。時代が不況にあえぎ、リストラ、倒産が相次ぎ、地方商店街が次々とシャッター通りと化していくなかで、「空白の10年」に抗うかのように、商業立地には不利な農山村に次々に1万カ所以上も新設されていった農産物直売所。その設立の背景をさぐれば、大規模農業を推し進める日本農政の問題が横たわっている。

 91年、農水省は統計上の農家分類を、それまでの専業農家・一種兼業農家・二種兼業農家の3分類から、販売農家と自給的農家の2分類に変えた。販売農家とは耕地面積を30アール以上もっているか、または年間販売額50万円以上の農家をさす。それを満たさない農家は「自給的」であるとして、統計上はもちろんのこと、政策の対象から外した。要するに農家のリストラである。それゆえ今日私たちが手にする農業データはすべて販売農家だけを対象にしたものである。

 国家から、もはやお前たちは日本農業の担い手に非ず、と戦力外通告を受けた「自給的農家」はその後どうなっただろうか。91年当時、その数はわが国全農家数の約25%を占め、約80万戸に及んだ。たしかに日本の農家の耕地規模は小さく、その担い手も高齢者や女性たちが多い。しかし食料自給率の低下が止まらぬこの国で、たとえ小規模な生産力でも、それを切り捨てるほどの余裕はあるのか。当時私も、大規模化一辺倒にひた走る農政に批判の紙つぶてをぶつけてみたのだが、反応は全くなかった。

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