ニッポンの「食」

2010年2月8日

秘すれば花、を受け継ぐ郷土料理

 晩秋の山口県山代地方で郷土料理のひとつ「あんこ寿司」をごちそうになった。いわゆる押し寿司の一種だが、ちょっと変わっているのは、ごぼう、にんじん、切り干し大根などを甘辛く煮た具が、表にのせるのではなく酢飯の中にうまっていること。土地の人に聞けば、かつての農家は米を作ってもそれを十分に食べられたわけではなく、「せめて祝い事の時ぐらいはたらふく」と出来た寿司なのだが、それでも米を節約するために具は中にしのばせ大きく見せたのだろうと言っていた。今ならば「なんだ、四角いおむすびか」と軽くあしらわれそうな寿司だが、私がいただいた現代のあんこ寿司の上には、赤いそぼろ、黄色い錦糸卵、緑のにんじんの葉、煮ふくめた椎茸、黒ごまが彩りよく添えられ、食欲をそそられた。

 舌だけではなく、目でも味わえるようにと心をくだく日本料理。それに慣れ親しんだ私たちには、せっかくの具を飯の中に隠さなければならなかった時代の食生活を思い、いささか感慨を禁じえないのだが、しかし、料理の一番の花をあえて隠し、そこにこそ思いをしのばせる食の系譜は、細い水脈ながら今も日本各地に残っているのである。

島根県弥栄の「うずめ飯」

 例えば、同じ中国山地の島根県弥栄(やさか)で法事や正月のもてなしに出る「うずめ飯」もそのひとつである。弥栄は人口1700人ほどの山間の小さな地域だが、どの家も庭先に畑を持っている。ここで取れたごぼう、にんじんは笹がきにし、椎茸は薄切り、里いもは乱切りにする。これを出し汁に入れて軟らかくなるまで煮て、味を整えて片栗粉でとろみをつける。ここまではどこにでもある家庭料理だが、盛り付けが変わっている。煮上がった具はまずドンブリの底に入れられる。その上にセリを散らし、特産のワサビを真ん中に置き、熱いごはんを盛って具をうずめる。冷めないようにとドンブリにふたをして、熱いところをどうぞとすすめる。山間の清冽(せいれつ)な水が育てた香り高いワサビがうずめ飯のいのちだと弥栄の女たちは口々に言う。

 だがそれだけではあるまい。むろん、寒い冬の日には身体が温まり、何よりのごちそうなのだが、人をもてなすにはあまりに質素すぎると気おくれしたのか、山野の恵みを椀の底にうずめ隠し、その上にごはんを盛り、伏し目がちに客に差し出す、そのこころ――。

 「どうだ!」と言わんばかりに派手に具を散りばめ、見てくればかりに走る現代の食文化。それに慣れきった目には、うずめ飯はあまりに貧しいもてなしと映るかもしれない。だが、秘すれば花。いや、秘してこそ花は香る、思いが届く。隠したのは食材ではない。客を思う心である。心はいつも裏に隠れている。だがしかし、はるばるとやってきた客である。これでよいかと心が揺れる。それゆえに、控えめに、そっと差し出すのである。

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