川島良彰:おいしいコーヒーの秘密―生物多様性の価値
コーヒーが飲めなくなる日
Mi Cafeto代表取締役 川島良彰氏
聞き手/中西 清隆、文/蔦林 幸子
25歳でUCC上島珈琲に入社。コーヒー会社による世界初の直営農場を実現させた川島良彰氏。以後、26年間のほとんどを海外で過ごし、各国の生産地でコーヒーの栽培指導から農園運営までを手がけてきた。48歳で同社の最年少執行役員に就任。2007年には幻といわれた「ブルボン・ポワントゥ」を65年ぶりに復活させたことから、“コーヒーハンター”の異名を持つ。
コーヒーをこよなく愛し、コーヒーを知り尽くした男が今、「このままでは、おいしいコーヒーを飲めなくなる」と危惧する理由とは、そしてサステナブルなコーヒーをつくるために何をしようとしているのか。
商品市場に翻弄されるコーヒー
―― 一昨年(2007)年、26年間勤めていたUCC上島珈琲をやめて、日本サステイナブルコーヒー協会を設立、さらに翌年にはコーヒー会社「Mi Cafeto(ミ・カフェート)」を立ち上げられました。

川島 良彰氏(以下、敬称略): 僕は日本のコーヒー業界に26年間いて、さらにその前はコーヒーの研究所にいました。日本のコーヒー業界に携わってきて、産地で見てきた状況がこのままいくと、コーヒーがアンサステナブルになると危惧しました。
―― アンサステナブルというと?
川島: つまり、生産者が安心してコーヒーをつくれない状況です。コーヒー豆は商品市場で扱われていますから、価格の変動が激しい。生産者がどんなに環境や人権に配慮してつくっても、それが評価されないシステムになっているんです。
そうしたコーヒーの現状や問題を、まずは「川下」、つまり消費者の方々に知ってもらおうとつくったのが、日本サステイナブルコーヒー協会でした。現在は主に、セミナーなどを通して啓発活動を行っています。一方、Mi Cafetoでは生産者と協働で、相場に左右されない仕組みをつくろうと考えました。
―― コーヒーが商品市場で扱われることには、具体的にどんな弊害があるのでしょう。
川島: 価格が下落すると、まず、生産者はコストを削減します。安くてよく効く、つまり毒性の強い農薬に変え、回数を減らし、最悪は肥料をやらなくなったりします。それでも農園を維持できなくなると、手放すしかありません。
すると農園は銀行などの債権者が管理することになりますが、銀行はコストを掛けて農園を維持したりしません。牧場にして牛を飼うんです。放牧といっても、ただ牛を放しておいて、そのうち牛を売ればいいという程度。これでは持続的なコーヒー生産なんてできないし、環境破壊にもつながります。
―― 質の悪い農薬で土壌が汚染されたり、それまであった自然環境がなくなれば、生物多様性も失われてしまう。再び価格が上がっても、一度、牧草地になってしまった土地をコーヒー農園に戻すことは難しいでしょうね。
川島: それどころか、新たに原生林を伐採してコーヒー栽培を始めるわけです。こんなことを続けていてはダメだと思いました。

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